波瑠はわずかな“違和感”を見逃さない 視聴者の声を代弁する等身大のヒロイン像

 一方、『こっち向いてよ向井くん』では、多くの視聴者が“飲み明かしたい、語り明かしたい”と思ってしまうような坂井戸洸稀役を好演し、彼女から繰り出される的確で痛烈な一言は視聴者の共感をかっさらった。

 10年間恋愛をしていない主人公の向井くん(赤楚衛二)と行きつけの飲食店の常連同士として出会い、彼にとっては忌憚のないアドバイスをくれるざっくばらんな飲み友達としての関係を築いていく。どちらかに肩入れしすぎることもなく、媚びることなく冷静に意見してくれる洸稀は向井くんにとっても頼れる存在になり、視聴者の気持ちを代弁してくれるような立ち位置だった。“良薬口に苦し”と言わんばかりの洸稀のごもっともな意見に向井くんも時に心の傷をえぐられるも、彼女は向井くんの失態を嘲笑ったり、一度の失敗だけで安易にラベリングしてしまうことなくどこまでもフラットだ。

『こっち向いてよ向井くん』は“ハッピーエンド”を描けるか “男と女”の先にあるもの

『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系)第4話終盤、片やサンダル、片や自分にとっては大きすぎる環田(市原隼人)の靴という、どち…

 言うことはズバッと言うけれど、気まずさを引きずらず、時にフォローも入れる洸稀。それが“師匠”のようにも“意識高い系”にも映らないのは、やはり彼女の人との絶妙な距離の取り方によるところが大きいだろう。相手に踏み込む時は踏み込むものの、基本的に「人の価値観はそれぞれで多様」「人生に、恋愛に正解なんてない」という大前提が当たり前にインストールされており、一人一人の選択を尊重しようという配慮が見られる。画一的な「正しさ」を押し付けようとしない。断罪することがない。お節介ではなく、求められれば自分なりの意見を相手に誠実に伝える、やはり誤魔化しのない人物だ。

 そんな洸稀自身も自らの矛盾に綻びを感じながら“傷つかなくてもいい恋”をしているつもりが、実は静かに傷つき無理をしている、そんな一面も見せてくれた。

 波瑠は1月18日放送開始のテレビ朝日系木曜ドラマ『グレイトギフト』では、反町隆史演じる主人公の病理医と共に真相究明に当たる検査技師・久留米穂役を演じるようで、またきっと絶妙な距離感でお互いを生かし合うバディを体現してくれるだろう。黒岩勉脚本の“サバイバル医療ミステリー”で波瑠がどんな役割を担うのかにも注目したい。

■放送情報
松本清張ドラマスペシャル『ガラスの城』
テレビ朝日系にて、1月4日(木)21:00~23:05放送
出演:波瑠、木村佳乃、満島真之介、髙嶋政伸
原作:松本清張『ガラスの城』(講談社文庫)
脚本:大森美香
音楽:木村秀彬
監督:樹下直美(アズバーズ)
ゼネラルプロデューサー:横地郁英(テレビ朝日)、大江達樹(テレビ朝日)
プロデューサー:神田エミイ亜希子(テレビ朝日)、目黒正之(東映)、土井健生(東映)
制作:テレビ朝日、東映
©︎テレビ朝日

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