バカリズム、前人未踏の脚本家の領域へ 作詞家・松本隆に通じる“人間”への眼差し
バカリズム作品の日常会話の精細度は、その並外れた観察力と洞察力から生まれていることに疑いの余地はない。特に、「女性の生態」「女子あるある」をリアルに描かせたら、男性脚本家の中では日本一巧いのではないだろうか。そうした技巧の源について、筆者は別稿(『ブラッシュアップライフ』が肯定するすべての人生 バカリズムの集大成と言える一作に)で、「日本映画学校(現・日本映画大学)時代の、クラスメイトの女子たちとのカフェ通い」が大きく影響しているのではないかと書いた。加えて、2006年から9年間MCを務めた『アイドリング!!!』(フジテレビ系)で、毎週数十人の女性タレントを相手に当意即妙な「回し」をしていた経験が活かされていることも想像に難くない。
『ブラッシュアップライフ』が肯定するすべての人生 バカリズムの集大成と言える一作に
回を増すごとに面白さにドライブがかかってきている『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系)が、折り返し地点を過ぎた。2度目の死を…
人並外れた観察眼が生み出す「女性どうしの会話あるある」が白眉であるバカリズムの脚本。きっと、このたびの『侵入者たちの晩餐』でも、その手腕を遺憾なく発揮してくれているに違いない。
しかしだからといって、決してバカリズムが女性しか描けないわけではない。コントのネタとしては、コンビ解散後間もないころに書いた「ヌケなくて……」や、40代にさしかかって書いた「40LOVE ~幸福の類~」をはじめ、「独身男性の悲哀」を描いたものが多い。ドラマでは、自身と井浦新をW主演に据え、従兄弟どうしの殺人計画を描いた2021年のドラマ『殺意の道程』(WOWOW)など、男性主人公の秀作も多い。
男のリビドーも、女子の「あるある」も、双方に説得力を持たせて、なおかつ徹底的な俯瞰の図で描けるバカリズム。『ブラッシュアップライフ』放送時に、「男性なのに、なぜこんなにも『女子あるある』をリアルに書けるのか」という感想や批評が散見されたが、それを見かけるたびに筆者は、作詞家・松本隆の言葉を思い出した。
ある時、松本隆が最も多くの楽曲を提供した松田聖子から、「松本先生はなぜそんなに女性の気持ちがわかるんですか?」と尋ねられた。すると松本は、「人間の心の奥底に釣り糸を垂らして、言葉を集めているだけ」と答えた。要するに、「人間」なのだ。人間を描ける作家は、男心だろうと女心だろうと、とてつもない説得力を持たせることができるのだ。バカリズムはもはや、脚本家界の松本隆と言ってしまっても過言ではないだろう。
「人間」を描ける脚本家・バカリズムの最新作『侵入者たちの晩餐』では、どんな物語が展開するのだろうか。
※2018年に放送された『青春高校3年C組』(テレビ東京系)にて「(論理的思考が過ぎて)人間ドックでMRIを撮ったら医師から『左脳が異常に発達していて、右脳のところまで寄ってきている』と言われた。普通の人がスルーするようなことも納得するまで考えちゃう。思考が止められない」とバカリズムが語った。
■放送情報
新春スペシャルドラマ『侵入者たちの晩餐』
日本テレビ系にて、1月3日(水)21:00〜放送
出演:菊地凛子、平岩紙、白石麻衣、角田晃広、池松壮亮、吉田羊
脚本:バカリズム
演出:水野格
プロデューサー:小田玲奈、榊原真由子、柴田裕基(AX-ON)、鈴木香織(AX-ON)
チーフプロデューサー:三上絵里子
企画協力:マセキ芸能社
制作協力:AX-ON
製作著作:日本テレビ
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