2023年の年間ベスト企画

杉本穂高の「2023年 年間ベストアニメTOP10」 豊かさを持続可能なものにするために

 宮﨑駿10年ぶりの新作は素晴らしかった。宣伝展開なしが議論となったが、作品は非言語的な映像体験のオンパレードなので宣伝で言葉まみれにしないことに意味があった。映像を映像のまま味わう経験は、ほとんどできない時代に贅沢な体験をさせてもらった。しかし、1位はこれから地位を築くべき作品として映画『窓ぎわのトットちゃん』を置くことにした。終始強度ある映像が展開される傑作で何度鑑賞しても発見があるだろう。

【本編一部解禁!】映画『窓ぎわのトットちゃん』イメージシーン<大ヒット上映中>

 『進撃の巨人』はシリーズトータルでの選考。歴史的名作マンガを最後までやり切った。最終話の首を斬られるエレンの瞳に写るミカサの穏やかな顔の素晴らしさ。原作にないカットだが、何回観ても感動だ。

 『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』は、次世代「テクスチャー映画」の筆頭として続編でさらなる進化を遂げた。『屋根裏のラジャー』や「FGO」8周年記念メモリアルムービーのような試みも国内から出てきており、注目すべき動きだ。それぞれの物語にはそれぞれふさわしいテクスチャーがあるはずだ。

『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が押し広げた映画の新たな可能性

2018年(日本の公開は2019年)の『スパイダーマン:スパイダーバース』は、アメリカの3DCGアニメーション業界におけるゲーム…

 海外作品では『ペルリンプスと秘密の森』と『オオカミの家』を入れた。この2本以外にも目を見張る作品はいくつもあった。海外インデペンデントアニメーションが、コンスタントに国内で上映される状況は本当に良いこと。この市場を開拓してくれた人々に感謝。

映画『オオカミの家』予告編

 岡田麿里は『アリスとテレスのまぼろし工場』で「映画作家」であると証明した。今後は映画祭でも勝負してほしい。こういう作家性を存分に発揮できる環境をより拡げたい。『BLUE GIANT』は理想的な中規模ヒット作だった。原作は有名だが、非常に実験精神の強い作風。こちらも有名IPだが『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』も挑戦的な内容を中規模ヒットに導いた。有名原作なしでこうした成功例がもっと出てくるといい。

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 テレビアニメの質的向上と制作本数の増加はどこまで行くのか。アテンションの奪い合いは激しさを増し、初回90分の『【推しの子】』や、数話をまとめて放送する『葬送のフリーレン』や『薬屋のひとりごと』などの試みが出てきた。その中から『【推しの子】』を選んだのは、これは90分通しで描かれるべき内容だったからだ。アテンションを取るためのマーケティング的視点だけの選択ではなかった。そのため、あえて劇場公開もされた初回の『Mother and Children』でランクインさせておく。

 課題はあるが、年間通じて良質な作品が映画でもテレビ・配信でも絶え間なく供給される状況は、豊かであると言える。今後もこの豊かさを持続可能なものにするため、課題を一つずつ丁寧に解決する必要がある。ライターとしてわずかでも助力できればと思っている。

■公開情報
映画『窓ぎわのトットちゃん』
全国公開中
監督:八鍬新之介
脚本:八鍬新之介、鈴木洋介
出演:大野りりあな、小栗旬、杏、滝沢カレン、役所広司ほか
キャラクターデザイン:金子志津枝
制作:シンエイ動画
原作:『窓ぎわのトットちゃん』(黒柳徹子著/講談社刊)
配給:東宝
©黒柳徹子/2023映画「窓ぎわのトットちゃん」製作委員会
公式サイト:tottochan-movie.jp
公式X(旧Twitter):@tottochan_movie
公式Instagram:@tottochan_movie
公式Facebook:@tottochan.movie

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