『いちばんすきな花』で“思慮が足りない”人とは誰か 生方美久が描く“合わせ鏡の敵意”

『いちばんすきな花』生方美久が描く敵意

「『いちばんすきな花』の、誰に共感する?」

 そう聞かれた時、私は答えられなかった。「2人組を作ってください」という言葉の、じわじわと手汗が滲むような“嫌なニュアンス”を感じたことがあるにもかかわらず、である。

 毎週、あの家で繰り広げられる会話劇に、ずっと心がざわざわしていた。ところがその心にわだかまる“何か”の正体を、長い間言語化することができなかったのである。しかし、第7話の放送を観て、ようやくその違和感の正体に気がついた。

 「2人」という関係の難しさ、男女間の友情、そして“余り物”に対する感情まで、答えのない問いを、丁寧な対話を通じて表現してきた『いちばんすきな花』(フジテレビ系)。潮ゆくえ(多部未華子)、春木椿(松下洸平)、深雪夜々(今田美桜)、佐藤紅葉(神尾楓珠)は、夜々の言葉を借りれば、人間関係において“考えすぎてしまう”人たちだ。

 彼女たち4人は共通の“あるある”を持っている。幼少期から、ゆくえたち4人は周りの空気を読み、周囲に歩調を合わせて、目立たないように生きてきた。中でも、夜々とゆくえは、その“あるある”に当てはまらない人を若干敵視している傾向がある。作中の会話のやりとりに、映画『花束みたいな恋をした』の一場面、「その人、今村夏子さんのピクニックを読んでも何も感じない人だよ」というセリフを思い出してしまった。最も顕著な例が、ゆくえが赤田(仲野太賀)の婚約者・峰子(田辺桃子)に陰で見せている態度だろう。

 赤田はゆくえの高校時代からの親友だが、ゆくえは彼から、結婚を機に「もう2人では会えない」と告げられてしまう。峰子が、異性の友人と2人、密室で会うのを嫌がったからだ。ゆくえはこの状況に「何それ。しょうもな」と反応し、友情よりも夫婦や恋人関係を重視する価値観を強要されることに反感を覚える。しかし、第7話で明らかになったのは、実は峰子が男女の間に友情が成立することを理解していたという事実だった。

「こたくんが浮気するなんて1ミリも思ってない。潮さんに恋愛感情がないって、それも本当だと思う」
「私には補えないってことじゃん。彼女とか嫁からは得られない栄養を潮さんから得てるってことでしょ?」

 峰子は、ゆくえと赤田の友情が、自身の恋愛関係をある意味で上回るものだと考えていたのだ。さらに彼女自身も、結婚に際して男性の友人に相談を持ち掛けた経験があるという。これでは、ゆくえの予想とはだいぶ話が違う。第6話までは、男女の友情について理解できる人とできない人の二分された構図のように見えたが、峰子の発言によって浮かび上がってきたのが、第3の選択肢「理解はできるが共感はできない」だった。

 ここで、私が4人に自分を重ね合わせられなかったのは、この4人の生き方のスタンスに「理解はできるが共感はできない」からだと悟った。峰子の思考は、まるで自分自身を見ているかのようだった。

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