隠れた名作『ノートルダムの鐘』の魅力を解説 ディズニーらしからぬキャラクターたち

他作品とは一線を画す魅力を持つキャラクターたち

 『ノートルダムの鐘』が他の有名作品と大きく違っている点の1つは、プリンセスやプリンスが登場しないことだ。前述のとおり、本作の主人公カジモドは、“醜い”容姿のためにノートルダム大聖堂の鐘つき堂にひとりぼっちで暮らしている。彼はフロローから外の世界は恐ろしいものだと教えられ、フロロー以外に自分を受け入れてくれる人間などいないと思い込まされていた。3体のガーゴイルの石像が“友達”である彼は、木彫りの人形を作ることを趣味として、鐘つきや掃除などの仕事以外の時間を過ごしている。プリンセスが登場しない本作だが、「不幸な生い立ち」を背負い、「自由のない生活」を送るカジモドは、ある意味“プリンセス”の素質があると言えるのではないだろうか。しかしプリンセスの物語にあるべき甘いロマンスは、彼の物語には存在しない。

 「醜い容姿」と聞いて同じディズニー作品で思い出すのは『美女と野獣』の野獣だ。しかし彼が傲慢の罰として魔女に姿を変えられてしまったのに対し、カジモドは生まれつき人と違った容姿をしているため、「魔法が解けて“本来の”美しい姿に戻る」ということはない。そう、本作には魔法も存在しないのだ。そんななかカジモドは魔法に頼らず、容姿に変化もないまま自らの運命を切り開いていく。

 また、ヒロインのエスメラルダもディズニーアニメとしては異色の存在。セクシーなジプシーの踊り子である彼女は、自分の意見をはっきりと口にし、フロローに毅然とした態度で立ち向かっていく。1990年代には、『美女と野獣』のベルや『アラジン』のジャスミンが、フェミニズムを意識した「自立した女性」を目指して生み出されたが、彼女たちの最大の関心事はロマンスであり、最終的には愛する人との結婚というハッピーエンドを迎えた。しかし、エスメラルダは違う。自由と平等を目指して戦う彼女は、フェミニズムのアイコンと言えるだろう。

 そして最も注目したいのは、本作のヴィランであるフロローだ。ある理由からカジモドをしぶしぶ引き取った彼は、カジモドを恐怖で支配し、下僕のように扱っている。さらにエスメラルダに歪んだ恋心を寄せ、その行動は視聴者に嫌悪感を抱かせるのには充分すぎるほどだ。簡単に言えば、他に類を見ないほど「キモい」。終始残酷で自らの行いを“正義”と考えているフロローは、ファンにはその「キモさ」がうけ、ディズニー屈指のヴィランとして人気を獲得している。

 ディズニー作品とは思えないほど、シリアスで暗い展開の『ノートルダムの鐘』だが、実は壮大な音楽と鮮やかな映像に彩られ、差別を受けていた人物が自ら道を切り拓き、周囲に受け入れられていく姿を描く感動的な物語だ。一方で、見た目では判断できない「怪物」の恐ろしさなど、深いメッセージが隠されている。今回の『金曜ロードショー』では本編ノーカット放送となるので、ぜひ美しい映像や楽曲、そして魅力的なキャラクターたちに注目して楽しんでほしい。

■放送情報
『ノートルダムの鐘』 
日本テレビ系にて、11月24日(金)21:00~22:54放送
※本編ノーカット
製作:ドン・ハーン
監督:ゲイリー・トゥルースデイル、カーク・ワイズ
ストーリー:タブ・マーフィ
脚本:タブ・マーフィ、アイリーン・メッキ、ボブ・ツディカー、ノニ・ホワイト、ジョナサン・ロバーツ
音楽・作曲:アラン・メンケン
作詞:スティーブン・シュワルツ
美術監督:デビット・ゲーツ
編集:エレン・ケネシア
出演:石丸幹二(トム・ハルス)、保坂知寿(デミ・ムーア、ハイジ・モーレンハウアー)、日下武史、村俊英(トニー・ジェイ)、鈴木荘麻(ケビン・クライン)、光枝明彦(ポール・キャンデル)
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