『コタツがない家』小池栄子の奮闘が面白く切ない 笑いの中に潜む世代ごとの生きづらさ

「深堀万里江の朝は、漫画家廃業寸前の夫・悠作が流しに放置した発泡酒の空き缶をゆすぐことから始まります」

 第1話冒頭のナレーション、1行目からいきなり、ダメ夫を抱えた万里江(小池栄子)の苦労が伝わってくる。『コタツがない家』(日本テレビ系)は、「男だけが稼ぐ時代ではない」という昨今の多様性が反映された作品といえる。そして、ダメ男を夫に持ったしっかり者の妻の“ブルース”が聞こえるドラマだ。

 担当したカップルの離婚件数0件という実績を誇る「伝説のウェディングプランナー」にして会社社長の万里江は、11年半もの間描いていない漫画家で夫の悠作(吉岡秀隆)に代わって一家の大黒柱として奮闘する日々だ。酒飲んでゲームしてソファで寝落ちする……というぐうたらな毎日を送る悠作は、働きもせずただ家にいるだけで、家事はいっさいしない。「人を癒す」という役割を果たしている飼い猫の「チョーさん」のほうがまだこの家の役に立っているのではあるまいか。

 一人息子の順基(作間龍斗)は遅れてきた反抗期で、アイドルのオーディションに落ちてふて腐れ、指定校推薦がもらえるはずだった大学を蹴り、進路迷子になっている。おまけに、40年以上連れ添った元妻の清美(高橋惠子)から2年前に熟年離婚を言い渡され、山奥で警察に保護された万里江の父親・達男(小林薫)も同居することになる。このドラマは、「戦力外」の夫・父・息子を食べさせながら、彼らが毎日のように起こすトラブルに振り回される万里江の「泣き笑いの“戦記”」だ。

 生田斗真主演で、口の減らないニートの主人公・岸辺満とその家族の日常を描き、第38回向田邦子賞を受賞した『俺の話は長い』(2019年/日本テレビ系)に続いて、屁理屈男を書かせたら右に出る者はいない脚本家・金子茂樹が書き、同スタッフの中島悟・丸谷俊平らが演出を手がける。

 本作でも、金子が書く「ダメ男の屁理屈」が悠作というキャラクターに存分に注ぎ込まれている。吉岡も脚本に答えるべく、代表作『北の国から』シリーズ(1981年〜2002年/フジテレビ系)の、特に少年時代の純のときによく見たあの「口尖らせ」をフルスロットルにして、見事にクズっぷりを表現している。やっぱりこの俳優は、自意識とプライドだけ無駄に高い屁理屈ダメ男を演じさせたらピカイチだ。

 そして『俺の話は長い』で満の姉・綾子を演じていた小池栄子が今回、同じ座組の『コタツがない家』で主演を務める。小池にとって本作が地上波ゴールデンプライム帯での初主演作となり、自ら「相当気合い入っていますので」(※)と語っている。

 ダメ男3人を肩に乗せながら奮闘する、バイタリティにあふれる万里江役が「当て書き」としか思えないほどに小池にハマっている。小池自身も「たぶん私が金子さんに家での主人の愚痴を言ったであろうことがそのまま本の中に反映されていて、驚きました」「これは、万里江であり小池栄子の物語なんだと思ってしまうほどです」(※)と語っている。

 猫よりも役立たずでぐうたらな悠作に対して万里江は、「リビングで飲み散らかして死んだように眠ってたから、このまま本当に死んでてくれないだろうかって一瞬でも期待した自分にゾッとしたよね。フフッ」と毒づくが、結局は心の奥で許している。

 悠作が11年半ぶりにちょっと漫画を描く気になったと聞くや(結局それも頓挫するのだが)大喜びする。仕事に専念するあまり、子育てにあまり注力できなかった自覚があるのか、勝手ばかりしている息子の順基にあまり強くものを言えない。「押しかけ舅」である達男は、娘婿の悠作と小競り合いをしてばかりいるが、そんな2人が将棋を差す姿を見て涙ぐむ万里江がいる。表では辣腕経営者としてバリバリ働く万里江の、こうした「脆さ」が面白くも切ない。

 コメディタッチの小気味良い台詞が飛び交う中、何気なく各世代ごとの「生きづらさ」も描かれていて、身につまされる。

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