『大奥』は“バディ”から“チーム”へ 制作統括が明かす「幕末編」初の映像化への覚悟
「幕末編」はどこを切り取っても瀧山役・古川雄大が見どころ
――よしながふみさんの『大奥』はこれまでも映画や民放ドラマで映像化されてきた作品です。改めて今回新たに映像化しようと思った理由は?
藤並:まず1つは原作が完結したということ。また、企画者であるプロデューサーの岡本幸江が10年前から映像化したいと思っていた作品だったというのもありますが、やはり新型コロナウイルスという人類に対する脅威が身近に迫ってきた今だからこそ、取り上げるべき作品なのではないかと。ただ、コロナがどうこうというよりは普遍的な人間の歴史。例えば、「医療編」では平賀源内(鈴木杏)という一人の天才がいながらも、歴史には残らない多くの人の知恵や犠牲により、人痘接種という一つの解決策が生まれました。そうした一人では到底太刀打ちできない未知の疫病に対して、英知を集めてみんなで乗り越えていく人間の尊さみたいなものをきちんと描いていきたいなと思いました。
――その上で、Season1とSeason2に分けた意図と、それぞれのテーマみたいなものがあればお聞きしたいです。
藤並:Season1とSeason2に分けた理由は、家光の時代から幕末・大政奉還まで映像化するにあたり、ワンクールのドラマでは描ききれないと思ったからです。Season1は既に観ていただいた通り、それぞれの将軍の色を濃く出しつつ、各バディとの関係性で見せていくドラマになっていたと思います。Season2は「医療編」に関していうと、赤面疱瘡と治済という巨大な怪物、いわば幕府や日本にとって脅威となるものにチームで立ち向かっていく人々。「幕末編」は大政奉還という大きなトピックを迎えるにあたり、戦争を回避するではないですけど、武力を持って脅威に立ち向かうのではなく、無血開城という平和に向かって奮闘する人々の群像劇という形をとりました。それがキービジュアルにも顕著に現れていて、Season1は将軍と対になる2人で3パターン、Season2は医療編と幕末編のそれぞれのチームで2パターンのキービジュアルを作っています。
――本作は原作ファンの期待に応える、非常に満足度の高い作品に仕上がっています。一方で、シーズン2はスケール感がアップし、同時に映像化のハードルも上がりそうですが、制作する中で心がけたことはありますか?
藤並:僕自身もよしながふみさんのファンで、『大奥』も大好きな作品だったので、リスペクトを持って取り組みたいと思っていました。脚本家の森下さんも非常にリスペクトが高く、例えるなら、よしながさんが作られた美味しいフルコースの料理を、森下さんが余すことなく折詰めのお弁当の中にうまく詰めてくださったように感じています。おっしゃる通り、幕末編に突入すると非常にスケールは大きくなっていくのですが、そこも原作同様に一人ひとりの内面や人物関係というところに集約していくのかなと。幕末を舞台にしたドラマは改革していく立場から時代の転換期を見つめた作品が多いと思いますが、僕自身、「大奥という狭い世界で生きる人々の目線からはこんな風に見えるんだ」という新たな発見もあったので、そこを視聴者の皆さんにもお楽しみいただけたらいいなと思っています。
――幕末にかけて歴史背景も複雑になってきますが、あまり詳しくない方でも楽しめるポイントを教えてください。
藤並:ここからは教科書でも、またこれまでのエンタメ作品でもあまり取り上げられてこなかった将軍の時代が始まります。そういう意味では歴史に詳しくない方でもとっつきやすいのかなと思いますし、逆に歴史のフィルターを通さず、史実も踏まえてよしながさんが描く13代から15代の将軍を「本当にこういう人だったのかもしれないな」と思いながら観ていただけるのではないか、というのが一つですね。もう一つはこの時代を取り上げた時代劇でいうと『篤姫』がありますが、例えば堺雅人さんが演じた家定とはまた異なる聡明さを愛希れいかさんが体現してくださっているので、その辺りを比較しながら観ていただくのも面白いかなと思います。また、瀧山役の陰間時代を演じるにあたり、古川雄大さんが花魁姿で登場しますが、どこを切り取っても美形なので、そこはぜひ楽しんでいただきたいです。
――瀧山役にミュージカルで活躍する古川雄大さんを起用された理由はどういったところにあるのでしょうか? 現場お話しされたことなどがあれば教えてください。
藤並:すごく華があり、人を惹きつける力を持った瀧山を演じられる俳優さんは誰だろうと考えたときに、大きな舞台の中でも観客の視線を惹きつけて離さない魅力のある古川さんが適任だと考えました。もちろん美形であるということもありますが、古川さんの求心力、人を惹きつける“陽”の部分が決め手です。なので、古川さんは今回が時代劇初出演ということもあって最初はすごく緊張されていたのですが、自然体のままで瀧山と重なる部分があるのであまり型にはまらず演じていただければという風にお話ししました。
――藤並から見た、古川さんの瀧山はいかがですか?
藤並:思っていた以上にチャーミングでした。それはもちろん良い意味で、古川さんが瀧山のいろんな表情を引き出してくださっています。原作よりも、より“かわいい”古川さん演じる瀧山を皆さんにも堪能していただきたいです。
――衣装やセットも非常に華やかで豪華ですが、特にこだわった点があれば教えてください。
藤並:家光の時代から大政奉還まで200年以上の歴史を描いていく中で江戸も様変わりしていくので、時代ごとのカラーを出しつつも、原作のイメージを損なわない世界観を作ることにSeason1では特に注力しました。Season2では引き続きそういったことも意識しながら、なおかつ家光の時代から受け継がれてきた、作品の底辺に流れるような繋がりを大事にしたいということを衣装チームのスタッフにもお伝えし、繊細に作り上げていただいています。特に作品のシンボルとなっている流水紋に関しては、最初に有功の流水紋を作る時に演出と衣装、そして福士さんも交えながら話し合い、素材から色から何までこだわったので視聴者の皆様から非常に好評をいただきました。なので、ある種のプレッシャーではないですが、皆さんの期待に引き続き応えられるよう、瀧山と胤篤の流水紋もより力を入れて作ったので楽しみにしていてください。
――藤並さんは2025年放送の大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』でも制作統括を務められます。また、『麒麟がくる』や『おんな城主 直虎』などこれまでも数々の時代劇に携わってこられた藤並さんが、今だからこそ時代劇で伝えたいことはありますか?
藤並:僕は昔から時代劇が好きで、『水戸黄門』(TBS系)や『遠山の金さん』(テレビ朝日系)を観て育ったのですが、時代劇だからこそ、愛情や死などの普遍的なテーマが伝わりやすいのかなと思っています。例えば、『大奥』の中では、家族や血縁の業が一つテーマとして浮かび上がってきますが、そういった現代劇では扱いづらいテーマも時代劇というフィルターを一枚通すことによって良い意味で毒っ気が抜け、観やすくなる部分もあると思うので、その辺りを時代劇で楽しんでいただけたら嬉しいです。
■放送情報
ドラマ10『大奥』Season2
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
出演:
【医療編】
鈴木杏(平賀源内)、玉置玲央(黒木)、村雨辰剛(青沼)、岡本圭人(伊兵衛)、中村蒼(徳川家斉)、蓮佛美沙子(御台・茂姫)、安達祐実(松平定信)、松下奈緒(田沼意次)、仲間由紀恵(一橋治済)ほか
【幕末編】
古川雄大(瀧山)、愛希れいか(徳川家定)、瀧内公美(阿部正弘)、岸井ゆきの(和宮)、志田彩良(徳川家茂)、福士蒼汰(天璋院・胤篤)ほか
原作:よしながふみ『大奥』
脚本:森下佳子
音楽:KOHTA YAMAMOTO
写真提供=NHK
©よしながふみ/白泉社