『死霊館のシスター 呪いの秘密』は信頼された作り手による“改革” 成功の背景を探る

 『死霊館』ユニバースも、気がつけば10年の歴史を築いていた。アメリカのアミティヴィルに佇む「悪魔の棲む家」から始まり、イギリスのエンフィールド、そしてルーマニアまで足を伸ばしたシリーズは、最新作『死霊館のシスター 呪いの秘密』で1956年のフランスに私たちを誘ってくれる。

映画『死霊館のシスター 呪いの秘密』本予告

 『死霊館のシスター』から4年後を描くこの作品は、前作と比べてキャラクターの深み、物語への没入感、そしてシリーズの中で未だかつてないほどのアクション要素のおかげで、エンタメ映画としてのワクワク感を取り戻せていたように感じた。

 興行成績を見ても、純粋に映画館で観客が楽しめたことが窺える。オープニング興行収入は3260万ドルを記録し、同日公開の『イコライザー THE FINAL』の3460万ドルに肩を並べた。北米公開から1カ月経った今も人気は衰えることなく、地道に世界興行収入として約2億5千万ドルを突破。内訳はアメリカ国内で8370万ドル、海外で1億7350万ドルとなっている。前作が“シリーズ最悪”と呼ばれ、海外批評サイト「Rotten Tomatoes」で批評家の評価が24%、観客も35%とかなり低い支持率を叩き出していたのに比べ、今作は批評家が46%、観客は76%の満足度を示しているのだ。では、前作に比べて本作は何がそこまで観客を楽しませたのか。

とにかくド派手! “ジェームズ・ワンのお気に入り”による改革

 本作では、ルーマニアの修道院でヴァラクと戦ったシスター・アイリーン(タイッサ・ファーミガ)が再び、悪と対峙することになる。フランスの教会で、とある神父が火炙りにされて殺された。その殺人事件をきっかけに悪が蔓延する中、前回“奇跡”を起こしたアイリーンは教会の要請で再び事件の調査を依頼される。同行するのは、信仰に疑いを持つ見習いシスターのデブラ(ストーム・リード)。もちろん、前作のラストと『死霊館』を観ている観客にとってはヴァラクがフレンチー(ジョナ・ブロケ)に取り憑いていること、一連の事件の原因であることがわかる。

 前作が教会及びその敷地内にとどまった閉鎖的でダークなホラーだったのに対し、本作はキャラクターの移動も多く、明るい時間のショットも多い。雰囲気全体が一新されているが、昼間でも容赦なく人が死んだり(配達の女の子は本当にかわいそうだった)、女学生によるいじめが横行したり(悪魔の出る幕もない)、昼間のシーンが増えたからといって作品全体がヤワになってはいない。それどころか、迫力も攻撃もシリーズ最大の火力を出してきている。クライマックスではド派手に鐘塔が崩れ去るなか、ソフィー(ケイトリン・ローズ・ダウニー)が悪魔フレンチーの壮絶な追跡を交わすアクションや、燃えるアイリーン、大量に放出される大量のワインなど画面の迫力が凄まじい。

 前作は『死霊館』作品にしては恐怖演出がチープなジャンプスケアだらけで、ヴァラクもただのモンスターに成り下がっていたと感じたが、本作はやるならやるで“物理系”の方向に舵を取った、その思い切りが功を奏したように思う。近年のホラー映画は『マリグナント 狂暴な悪夢』や『M3GAN/ミーガン』などの “物理攻撃系”の作品が観客の心を掴む傾向があるように感じるが、まさに本作の脚本を担当しているのが上記の作品で筆を振るったアケラ・クーパーなのだから、『死霊館のシスター 呪いの秘密』のテイストが変わった点も納得だ。そして監督を務めたのは『死霊館 悪魔のせいなら、無罪。』のマイケル・チャベス。彼は『ラ・ヨローナ〜泣く女〜』で長編デビューを果たしており、フィルモグラフィーが今のところ『死霊館』ユニバース作品のみということもあって、ジェームズ・ワンの最近のお気に入り監督と言っても過言ではない。クーパーも同じくワンと仕事をする機会が多いため、2人の起用にはワンの“ユニバースの方向転換”に対する期待が窺える。

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