朝ドラ『ブギウギ』男役と娘役が反転した別れの抱擁 蒼井優「ありがとう」の自然さ

 世界恐慌の影響から、楽団員の解雇、賃金削減に踏み切った梅丸株式会社を相手に、大和(蒼井優)たちは嘆願書を提出。世間にも大々的に知られることとなった「桃色争議」は、ついにストライキへと発展する。『ブギウギ』(NHK総合)第15話では、梅丸の経営者である大熊社長(升毅)へと大和、橘(翼和希)、スズ子(趣里)がそれぞれの自身の意見を持って直談判をすることとなるが、このシーンの三者三様の演技が素晴らしかった。

 本社の赤の絨毯を進む大和とスズ子。社長室から聞こえてきたのは、話し合いの場を作ってほしいと必死に頼み込む橘の叫び声だった。ストライキを決行しようとする大和とお客様に最悪の現実を見せてしまうこと、会社を裏切ることを許されないという考えの橘は対立している。声を荒げる橘の思いも虚しく、大熊がその考えを変えることはない。

 その様子を部屋の外から耳をそば立てて聞いていたスズ子は、我慢ができなくなっていた。「何や、さっきから聞いとったら! コラァ!」と威勢よく扉を開けて入ってきたスズ子の言葉遣いは、梅丸の劇団員としてはもちろん、一般常識としても受け入れられるものではない。先ほどの勢いはどこへやら、急に緊張が色濃く見え始めるスズ子の口調は頼りなく、梅吉(柳葉敏郎)に引っ張られて「ストライク」と間違えてしまっているが、それでも自分自身の思い、意志を持ってここに立っていることをはっきりと提示する。話しながら自分自身にある答えを見つけ出そうとする、その徐々に芝居が熱を帯びてドライブしていくさまは観ているこちらが胸を打たれる、そんな演技だ。

 しかし、「一番大切なこと」の自問自答が見つからないスズ子。彼女の思いに触発されるように、次は大和が「自分自身」だと社長たちの前に姿を見せる。自分を大切にできない人間は会社やお客様を大切にはできない。だから、ストライキを決行するというのが大和の考え方だ。それでも引き下がらない大熊に、社長室を出て行こうとする大和とスズ子。そこに立ちはだかるのが橘だった。

関連記事