『らんまん』現在とは正反対の“終わった場所”の渋谷 “観察”の視点が寿恵子の背中を押す
寿恵子が商いに踏み出す過程には、街づくりゲーム的な面白さがある。差配人のりん(安藤玉恵)との会話で、ご近所の助け合い、共助の起源について考える中で、「手かけてる分、自分の町だって思うよね」と地元への愛着が鍵を握ると気付いた。では、今いるところが助け合いのない場所だったら? りんの答えは「妄想を話し合う」ことだった。興味深い箇所なので抜粋する。
「思い浮かべてごらん。例えば、北海道の開拓地に一人で行ったらって。そしたら、もう荒野を見るだけで絶望だろ? でも誰かがいるならさ、寒さに震えながら、好き勝手妄想するんだよ。何があれば幸せになれるかって」
妄想して前向きな気持ちになったところで、できることから着手する。突飛なアイデアにも思えたが、『南総里見八犬伝』好きの寿恵子には腑に落ちたようである。それでもネガティブな印象をぬぐえない寿恵子の認識を覆したのが、くだんの握り飯だったのである。
寿恵子には想像力があって、それは創造性に結びつくものだが、現実に何から始めるかとなるとまだ不安だ。そんな寿恵子の背中を押したのが「観察」の視点だった。万太郎がツユクサを観察しながら語ったおしべの構造。身近にある植物が驚くべき生態を持っていること。それらの発見は観察によってもたらされる。万太郎や竹雄(志尊淳)から教わった横倉山での経験が血肉となって、寿恵子の中で芽吹いた瞬間だった。一見すると荒れ果てた荒野。だが、そこには可能性がある。渋谷を寿恵子はどう開拓していくのだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK