『マイ・エレメント』は「不可能なことばかりだった」 プロダクション・デザイナーが語る

 “エレメントの世界”を描いたディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』。その魅力のひとつに、 火・水・土・風のエレメント(元素)が共に暮らす都市「エレメント・シティ」の見事なまでの美しさ、そして主人公である“火のエレメント”エンバーや“水のエレメント”ウェイドらのキャラクターの造形が挙げられるだろう。そんな本作における“ビジュアル面”を支えたプロダクション・デザイナーのドン・シャンクに、米カリフォルニア州にあるピクサー・アニメーション・スタジオでインタビューを行った。「不可能なことばかりだった」という制作の裏側に迫る。

最も多くの時間を費やしたのは「エンバーの家」

ドン・シャンク

ーープロダクション・デザイナーとして関わった『マイ・エレメント』の制作作業はどのようなものでしたか?

ドン・シャンク:(以下、シャンク):この映画にはたくさんのチャンレンジがありました。私はプロダクション・デザイナーとして、ビジュアル的に美しく、それぞれのエレメントの“らしさ”を感じさせることが必要でした。それでいて、観客にとって忙しくなり過ぎないように、観ていて疲れてしまわないようなデザインにするのは簡単な作業ではありませんでした。

ーーさまざまなエレメントが暮らす「エレメント・シティ」の描写がとにかく素晴らしかったです。

シャンク:この世界に出てくる建物について、初期の頃、僕たちはすべてのエレメントが一緒に住めるような感じにしたいと思っていました。ですが、みんなが同じアパートに住むことができる人間とは違って、エレメントの場合、たとえば水のエレメントのためのアパートは火のエレメントには向いていない、ということになる。逆もまた然りです。なので僕たちは、それぞれのエレメントにとって住みやすい建物を考えました。今回、“水”はブルー、“火”は赤、“土”は緑、“風”はピンクとパープルと、それぞれのエレメントに主な色を決めています。遠くから見ると“水”の建物に見えても、近づいてよく見てみると、いろんな建物があって、他のエレメントが一緒に住んでいるというふうにしたのです。デザインというものはストーリーを語る目的のためにやるものなので、映画の中で思う存分見せることはあまりできませんでしたが。

ーー映画の主な舞台のひとつで、雑貨屋でもあるエンバーの家にもこだわりを感じました。

シャンク:エンバーの家には最も多くの時間を費やしました。僕らがこの映画でやろうとしていることを最も象徴するものだとも思います。エンバーの家は、“火”に関係する多くのものを集めて作られています。まるでセットの中にもうひとつセットがあるような感じですね。家の中も外も、革命的なアイデアにあふれていて、とても複雑なんです。シェイディングのアイデアもたくさん使われていますし、モデリングも美しい。「セットの中で一番のお気に入りは?」と聞かれたら、僕はエンバーの家を選びますね。

ーーなるほど。では「お気に入りのシーン」はどこでしょう?

シャンク:個人的に気に入っているのは、エンバーとウェイドが気球に乗るシーン。すごく美しくて、ロマンチックです。それにあのシーンは、エレメント・シティが最も美しく見えるシーンだと思います。ただ、僕たちはこの映画にすごくたくさんのものを詰め込んだので、皆さんには“すべて”を見てもらいたいです。そんな姿勢で挑みました。出てくる人がみんなスーパースターで、脇役は1人もいない、という感じですね。

ーーそれぞれのエレメントのキャラクターもとても魅力的でした。“火のエレメント”のエンバーや“水のエレメント”のウェイドのように、質感の異なるそれぞれのエレメントのバランスはどのように取っていったのでしょうか?

シャンク:キャラクター同士のバランスを取るのは非常に難しかったです。とりわけ“火”のエンバーと“水”のウェイドは、一緒にいて自然に見えるようにしたいと思いました。初期の頃、ウェイドに関しては水のメスニカスをもとに全体の形を作っていったんです。それがとてもいい形だったので、他のエレメントにも利用していこうと思いました。2人に似ている要素を与えたかったので、僕たちはエンバーにも同じようなものを探すことにしました。その中で見つけたのが、動く炎の絵でした。まるで輪郭があるようで、滑らかに動いていたんです。そういった形で、それぞれのエレメントにふさわしく、かつお互いコネクトする何かがあるものを見つける作業をしていきました。

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