最高にロマンチックで感動! ピクサー新作『マイ・エレメント』は大人にこそ刺さる

 「現代における恋の始め方」を教えてくれる。8月4日公開のディズニー&ピクサー最新作『マイ・エレメント』は、ティーンや大人にこそ刺さるものがある作品だ。

 全米で6月16日に公開されて以降、実際に映画を観た観客による口コミをきっかけに全世界で大ヒットを記録し続けていて、世界興収は7月31日時点で3億9500万ドルに達している。コロナ禍以降のディズニー&ピクサー作品における最大のヒット作となっている本作が、瞬発的な興行にとどまらず、いまだに成績を伸ばし続けているのだから、この数字の持つ意味は強い。

 本作が口コミで成績を伸ばした理由は、映画を観ると理解できる。もしこの夏、素敵なデート映画を観に行きたいのであれば、私は間違いなく『マイ・エレメント』を推したい。

 舞台は、火・水・土・風といったエレメント(元素)が住む都市「エレメント・シティ」。主人公の「火」のエレメントであるエンバーは、自分が生まれる前に都市に移り住んだ両親と共に街の片隅で雑貨店を手伝いながら暮らす。一見色鮮やかに見えるエレメント・シティだが、そこは決して「火」にとっては住みやすい場所ではなかった。特にお互いを消してしまう「水」と「火」の相性は最悪で、エンバーの父親も娘に「水」と関わることを禁止する。しかし、とある事件をきっかけに、彼女は「水」の青年ウェイドに出会うのだった。

 本作はこの決して関わってはいけない2人が出会い、次第に恋に落ちる過程を描いたロマンス映画でもある。こんなふうにはっきりと“恋愛映画”と言える作品をピクサーが出すこと自体がそもそも珍しい。もとより海の中の世界(『ファインディング・ニモ』)、おもちゃの世界(『トイ・ストーリー』)、頭の中の世界(『インサイド・ヘッド』)など、独特の視点で世界を描くことに長け、その中でリレーションシップ(関係性)をテーマにすることがピクサーの得意技であるが、本作はリレーションシップはリレーションシップでも、“恋愛関係”と“親子関係”に焦点を当てている。元素の世界を舞台にした設定から、壮大で抽象的な印象を持つ人もいるかもしれないが、蓋を開けてみるとミニマルで、とても具体的な話――広い世界の中で出会った少女と青年の物語であり、移民1世の少女と家族の絆についての物語なのだ。だからこそ、実社会への距離感が近くて共感ができる点が多い。そういうテーマ性もあって、本作は子供より恋の疼きに気づいたティーン世代から大人世代の方が深く刺さるものがあったり、エンバーとウェイドの距離感やエンバーの家族に対する葛藤に共感できたりするのではないだろうか。

 「水」の青年ウェイドは「火」のエンバーと違って“流動的”で、いろんな元素に共感できる。一方、エンバーは“アツく”なりやすく、そんな自分に悩んでいる。そんな彼女に対するウェイドの優しい距離の詰め方や、“好き”という気持ちを表す過程が心地よい温度感で、じんわりと胸に広がる。エンバーの拒絶的な態度にめげずに彼女をデートに誘って、デート当日は満員のエレベーターで他の要素からエンバーを守るように立つウェイド。まるで満員電車で、他の人に押されないように彼女を守る男の子の姿を見かけたような気持ちになって、何とも言えない尊さに痺れる。ウェイドとエンバーが徐々に親しくなっていく過程には、そういう美しさが溢れていて、特にウェイドの騎士道は「現代における正しい恋愛の始め方」を教えてくれるような気がした。

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