興収17億円突破! 『劇場版アイドリッシュセブン』が3次元アイドルファンに刺さった理由

“次元を超える”アイドル

 『劇場版アイナナ』の最大の特徴は、とにかく“リアルな”ライブに徹していることだ。監督を務めた錦織博は、「アニメーションだから何でもできるということはせず、あくまでもリアルなステージの演出を追求しました」と語っている。また同じく監督の山本健介によれば、これらの演出は、潤沢な予算さえあれば、リアルでも全く不可能ではないという。確かに『劇場版アイナナ』は、ほかのアニメ作品の「劇場ライブ」と比べると、いくぶん地味な印象を受けるかもしれないが、それはリアリティにこだわったからだ。

 こうしたリアリティの追求は、普段3次元のアイドルを推している観客に、驚くほど好印象を与えている。オープニングの抽象的な映像から、各グループのパフォーマンスや楽曲、アイドルたちの佇まいに既視感を覚え、リアルアイドルのライブを想起させているのだ。

 とくに楽曲は、実際にリアルアイドルに楽曲提供をしている作曲家たちが多数参加しており、その匂いを感じ取る観客が多い。IDOLiSH7の楽曲のいくつかは、ボカロPとして活躍し、嵐にも楽曲提供もしているkzが手掛けているし、TRIGGERの楽曲には小室哲哉が手掛けたものもある。ŹOOĻの人気曲「ササゲロ ‐You Are Mine‐」は前山田健一によるもの。本作のために作られた16人曲「Pieces of The World」は、Hey! Say! JUMPやNEWSなどの楽曲を手掛けてきた伊藤賢によるものだ。『アイナナ』のアイドルたちは、リアルアイドルと同様に、錚々たる面々から楽曲提供を受けてきた。楽曲の良さは『アイナナ』の人気の理由の1つであるが、長年リアルアイドルを追ってきた観客たちの嗅覚は、それを逃さない。

 また、リアルアイドルのファンたちは、ダンスやMCでのやりとりからにじみ出るアイドルたちのパーソナリティや、グループの特徴も敏感に感じ取っている。それは「わかるように作っている」という面もあるのだろうが、それでも驚くほど正確にアイドルたちの背景を察知しているのだ。これは、これまでの企業コラボでも、現実に存在するアイドルとして振る舞ってきた『アイナナ』のアイドルたちにとって、うれしいことなのではないだろうか。

 『劇場版アイナナ』は、これまで「マネージャー」としてアイドルたちの裏側を見てきた既存ユーザーにとって、ステージに立つ彼らを、ほぼ初めて「ファン」として見ることになった作品だ。裏側を知っているとグッと来る演出も多々あるのだが、それを知らない観客の目にもアイドルたちが魅力的に映っていることは、とても喜ばしい。

 『アイナナ』のストーリーは、ときにアイドルの儚さ、永遠を夢見ながら決して永遠ではいられない葛藤を描く。新曲「Pieces of The World」は、そんなアイドルたちが、いつか来る自分たちの“終わり”を見つめながら、“今”の輝きを歌う曲だ。リアルアイドルのファンのなかには、彼らの“終わり”を見たことがある人も少なくないだろう。そんな人たちにアピールする『アイナナ』のアイドルたちは、永遠にはつづかないしあわせを意識し、人間らしさを感じさせる、文字通り“次元を超えた”アイドルだといえるだろう。

■公開情報
『劇場版アイドリッシュセブン LIVE 4bit BEYOND THE PERiOD』
全国公開中
原作:バンダイナムコオンライン・都志見文太
監督:錦織博・山本健介
脚本:都志見文太
キャラクター原案:種村有菜
CGチーフディレクター:井野元英二
キャラクターデザイン:宮崎瞳
美術ボード:大久保錦一
色彩設計:三笠修
総撮影監督・ルック開発:若林優
編集:瀧川三智・須藤瞳・仙土真希・山岸歩奈実
編集スーパーバイザー:西山茂
音楽制作:ランティス
音響監督:濱野高年
制作:オレンジ
製作:劇場版アイナナ製作委員会
配給:バンダイナムコフィルムワークス・バンダイナムコオンライン・東映
声の出演:小野賢章、増田俊樹、白井悠介、代永翼、KENN、阿部敦、江口拓也、羽多野渉、斉藤壮馬、佐藤拓也、保志総一朗、立花慎之介、広瀬裕也、木村昴、西山宏太朗、近藤隆
©BNOI/劇場版アイナナ製作委員会
公式サイト:https://idolish7.com/film-btp/
公式Twitter:@iD7_film_btp

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