『ランガスタラム』はあらゆるジャンルの面白さを凝縮 なだぎ武がインド映画の魅力を分析
インド映画は日本人と相性が良い?
――主演のラーム・チャランは今回いかがでしたか?
なだぎ:『RRR』の時とは全然印象が違っていて、難聴を抱えているんだけど飄々としていて、人生を楽しんでるキャラクターなんですよね。でも、終盤にかけてどんどん『RRR』みたいなむちゃくちゃな感じにもなっていく。人の足首持ってひょいと後ろに投げ飛ばすアクションはウケました(笑)。
――インドの俳優さんは、どう見ても普通の人間にはできないことをやってもなぜか不自然じゃないというか、様になってますよね。
なだぎ:それがインド映画の魅力のひとつですよね。『ムトゥ 踊るマハラジャ』を観た時から、映画だからあんなに壮大に踊って歌ってるんでしょうけど、どこか日常と背中合わせだなとも感じたんです。アクションも常人ではできないことなのに、その日常感のせいか、「この人ならできそうやな」と思わされてしまう(笑)。ああいうアクションを日本の役者さんがやっても、「ワイヤーアクションすごいな」とか思ってしまうわけですよ。それはやっぱり、表現者の中から出てくるエネルギーみたいなものがあるんじゃないですかね。
――昨年から今年にかけて『RRR』が大ヒットして、日本にもインド映画が定着しそうな流れになってきました。どうして日本人にインド映画がここまで刺さったんだと思いますか?
なだぎ:『ランガスタラム』も『RRR』もそうですけど、悪者を成敗するわかりやすい部分と爽快感があるところが、日本の時代劇の面白さに通じるものがあって、そこに親近感を感じてるんじゃないですか。さらに、どこか泥臭さや人間臭さみたいなものもあって日本人が観ても共感できるんだと思います。
――確かに、本作の悪役のプレジデントはいかにもな“悪代官”でしたね(笑)。
なだぎ:そうやって徹底的に悪く描いて成敗していくみたいな。『半沢直樹』(TBS系)も時代劇みたいなノリだったからヒットしたんだと思うんです。
――主人公たちのキャラクター造形に関してはいかがですか? 主人公のチッティとお兄さんの関係性も日本人好みの部分があるような気がします。
なだぎ:そうですね。この兄弟の描写は、アニメのようにわかりやすいですよね。ケンカは弱いけど頭が良くて理知的に物事を考えているお兄さんと、難聴だけど腕っぷしが強くてやんちゃな弟。ガキ大将のような性格だけど兄想いで人情にもろい、こういうキャラクターって少年マンガにもよく出てきますよね。子どもの頃から、そういうキャラクターに慣れ親しんできた日本人に馴染みのあるキャラクターたちなので、ちょっと展開がわかりにくかったとしても置き去りにされないと思います。
――そうですね。今回の主人公は確かに底抜けに明るくて少年マンガの主人公のようです。
なだぎ:そういう感じのキャラクターが政治的な部分にも切り込んでいき、社会風刺も効いている。この映画を観ると、自分もしっかり考えないといけないなって気にさせられます。そういうところでも印象に残る作品です。こういう作品って日本からなかなか出てこないですからね。
――日本ではもっと堅苦しくシリアスになるというか。底抜けに明るくて、さらに政治的な要素も描けるのはインド映画のすごいところかもしれません。
なだぎ:本当にそうですよね。陽気な中にもしっかりとした軸がある。こういう作品を若い人には特に観てほしいと思います。理屈じゃなく感じ入るものがあると思うので。とにかく映画館でこれを体験してほしいです。
■公開情報
『ランガスタラム』
新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネ・リーブル池袋にて公開中
監督・脚本:スクマール
出演:ラーム・チャラン、サマンタ、プラカーシュ・ラージ、ジャガパティ・バーブ、アーディ・ピニシェッティ
撮影:R・ラトナヴェール
音楽:デーヴィ・シュリー・プラサード
編集:ナヴィーン・ヌーリ
製作会社:マイトリ・ムーヴィー・メイカース
配給:SPACEBOX
2018年/インド/テルグ語/174分/英題:Rangasthalam
©Mythri Movie Makers