また、映画では、監督がAirbnbで泊まった民家で偶然マルセルの住処を見つけ、彼に取材を申し込む。そして、その動画をYouTubeにアップロードしたところ、思わぬ反響を呼び、マルセルはSNS上で一躍人気者になる。

　これは、本作が映画になる前、監督がマルセルを主人公にしたショート動画をYouTubeにアップしたことから人気に火がつき、映画化された現実の過程とリンクしている。

　このように本作では、リアルとフィクションの境界を飛び越えた特殊な作劇が行われており、観ているうちに本当にこの世界のどこかーー観葉植物のプランターや壊れかけのテニスボールの中ーーにマルセルがいるのではないかと錯覚させられる。

　本作の素晴らしさは、マルセルと監督の出会いが非日常ではなく、あくまで日常の中にある点にある。外国には外国の風習があるように、貝のマルセルには貝なりのささやかな暮らしがある。マルセルの目線にあわせて、低い位置から近視眼的に事物を映し出すカメラワークは、私たちの日常もまた、視点を変えるだけで思わぬ発見があることを教えてくれる。

■公開情報
『マルセル 靴をはいた小さな貝』
全国公開中
監督：ディーン・フライシャー・キャンプ
脚本：ディーン・フライシャー・キャンプ、ジェニー・スレイト、ニック・パーレイ、エリザベス・ホルム
キャスト：ジェニー・スレイト、イザベラ・ロッセリーニ、ディーン・フライシャー・キャンプ、レスリー・スタール
提供：アスミック・エース、TCエンタテインメント
配給：アスミック・エース
2021年／アメリカ／90分／原題：Marcel the Shell with Shoes On／字幕翻訳：小山朋子
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公式サイト：http://marcel-movie.asmik-ace.co.jp/
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