『あなたがしてくれなくても』三竿玲子Pに聞く、“リアル”の作り方 地獄のランチの裏側も

 木曜劇場(フジテレビ系木曜22時枠)で放送されているドラマ『あなたがしてくれなくても』が6月22日に最終回を迎える。ハルノ晴の同名漫画(双葉社)を原作とする『あなたがしてくれなくても』はセックスレスの2組の夫婦の物語だ。

 夫の陽一(永山瑛太)とのセックスレスに悩む吉野みち(奈緒)は、会社の同僚で同じく妻の楓(田中みな実)とのセックスレスに悩む新名誠(岩田剛典)に次第に惹かれていく。セックスレスに悩む2組の夫婦のリアルな物語は、初回から大きな反響を呼び、民放公式テレビ配信サービスTVerの再生回数も高い数値を記録している。

 今回、リアルサウンド映画部では、『あなたがしてくれなくても』のプロデューサー・三竿玲子氏に話を聞いた。多くの夫婦を凍り付かせたドラマは、どのようにして作られたのか?

大反響だった、みちと楓の「地獄のランチ」

ーーいよいよ最終回ですが、これまでの反響はいかがでしたか?

三竿玲子(以下、三竿):みちと楓が対面する場面は反響が凄かったですね。みなさんに「地獄のランチ」と名付けていただけたのが私たちは嬉しかったです。

ーー第8話冒頭ですよね。2人が無言で向き合う姿が延々と続くあのシーンは凄かったです。

三竿:漫画の中にみちと楓がカフェで対面するシーンがあるのですが、読んでいてワクワクしたんです。あのワクワク感を再現したいと考えて、とにかくずっと対峙させようという話になりました。三島さん(さとうほなみ)が不倫相手の奥さんと電話で会話する場面も漫画にはあって、ドラマでは実際に対峙させて、女同士の睨み合いをたっぷり見せる回にしようと脚本家に話して台本を書いてもらいました。初めは何回かシーンを割っていたのですが、それもいらない、まるまる楓が去るところまで見せてしまおうと途中から考えて、最終的にはタイトルに入るまで一言も声を発さないようにしようとなりました。

ーー撮影は一発撮りだったのですか?

三竿:後半は編集上は顔のアップなどが入るのですが、実際にみちと楓のシーンは、ウェイトレスさんがハーブティーを持ってきて、砂時計をひっくり返すところから最後まで1カットで撮影しています。音も喫茶店の音しか聞こえないようにしようと思って、ああいう作りにしました。現場はものすごい緊張感で、私が途中で咳をしそうになって怒られるってくらい(笑)、あの緊張感は楽しかったです。

ーー第7話の終わりから予告編に繋がる流れも素晴らしかったです。

三竿:第7話の最後は、ついにみちと新名の関係を知った楓が、みちに直接会いに来るという盛り上がりで終わるようにしていたので、楓がみちに近づいて距離を詰めたところで、無音にするという演出を監督が考えてくれました。この終わり方が緊張感があって良かったので、その後すぐにくる来週の予告で音楽や台詞が入るともったいないなぁと思ったんですよね。第8話冒頭でたっぷりと女たちの睨み合いを見せることはわかっていたし、第7話の最後のカットの時点ですでに次回予告として成り立っていたので、世界観を崩さないように一言も喋らないで睨み合う、音楽もなしの予告映像にしました。

ーー音も印象的でした。

三竿:まわりの席の人がたてている音だけが小さく入っているんですけど、かちゃかちゃ鳴る音に、私がすごくこだわって、「もっとスプーンが食器にあたる音みたいなのはある?」とか第7話本編そっちのけで聞いていたら、監督から「いい加減にしてください」と怒られました(笑)。

ーー「地獄のランチ」を筆頭に、本作は画作りにとてもこだわっているドラマだと感じます。どういう方針で撮られたのでしょうか?

三竿:「こういう話だし、よりリアルなトーンでやろう」と西谷弘監督に提案していただきました。ドキュメンタリーに見えるくらいリアリティを追求して撮りたいとカメラマンと決めて、他の監督もみんなそれを踏襲してくれて。あまりカットを割らずに一連で撮影するので、役者陣もセリフを全部ちゃんと入れて自分のものにしてこないといけなかったのですが、演じるスキルのある方たちだったので、とても助かりました。

ーーセックスレスの話なのに画面の中に色気が充満しているのが面白いですよね。あの雰囲気はどのようにして演出されたのですか?

三竿:なるべくセリフをセリフっぽくしないように考えました。綺麗なセリフというよりは、ついつい出ちゃった言葉に聞こえるような口調に変えて、決め台詞みたいにならないようにしています。演技の間合いも、ドラマ的にはもっと間をとって話すのに、ちょっと早めに言ってしまうようにしたり。リアルな感じになるべくみせたいというのがあって。そういう意識をしているので、独特の雰囲気が生まれているのかなぁと思います。

ーー脚本は市川貴幸さんとおかざきさとこさんが交互に担当していますね。

三竿:はじめにお2人と私で登場人物の心の流れ、お話の展開をザックリと作り、各話を作る時に指標にして、脚本家によって作品の印象が変わらないように気をつけました。常に原稿は3人で共有して、時には、ご自分の脚本回ではない回の打合せにも出て頂いたりして、脚本の流れをお2人自身がよく把握してくださったので、うまく回せたのだと思います。

陽一の職業をカフェの店長に変更した理由

ーー原作から設定で大きく変わったのは、陽一がカフェの店長になったことですが、なぜ変更されたのでしょうか?

三竿:漫画のシステムエンジニアという設定もすごく良かったのですが、みちと新名さんも会社の人で楓も編集部にいる。そうすると、映像になった時に会社と家の往復ばかりになってしまうので、カフェという違うトーンの空間を入れたいと思ったのがきっかけです。原作のハルノ先生に事情を話して、陽ちゃんの職業を変えたいと相談したら了承してくださったので、カフェの店長になりました。

ーーコーヒーには何かこだわりがあったのですか?

三竿:脚本の市川くんが、カフェに勤めていて詳しかったんです。そこから、カフェというアイデアが出てきたのですが、男の人が丁寧にコーヒーを淹れている姿は色気があっていいなぁというのもありますね。いつもは適当だけど、こだわりを持って仕事をしている時はかっこいい陽ちゃんが見られる。

ーー個人的には、陽一が気になります。漫画では明確に酷いことを言っていると感じる場面でも、瑛太さんが演じると少しぼやけた曖昧な感じになるので、どこか納得してしまう部分が出てくる。

三竿:陽ちゃんは瑛太さんにお願いした時点で、ちょっと年齢設定が上がってるんですよね。漫画の陽ちゃんはもう少し若くて、言葉は悪いですが、ガキっぽいところが多めなんです。でも、瑛太さんに演じて頂く上で、もう少し大人の陽一にしたいということになりました。瑛太さんにはなるべく感情を表に出さないように監督が話していました。演じる上で、感情を出したくなってしまうところもあるのですが、抑えた方がいいと判断して。でも「ここぞ」というところでは、感情を全面に出してくださるのでそこが生きるという作りにできました。

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