『らんまん』牧瀬里穂の母としての眼差しと言葉が響く 竹雄との別れの予感も

 前回に続く多幸感。『らんまん』(NHK総合)第57話では、プロポーズが大成功した万太郎(神木隆之介)と 、“大冒険”に乗り出した寿恵子(浜辺美波)が白梅堂へ挨拶に行く。

 先に釣書を受け取っていた寿恵子の母・まつ(牧瀬里穂)は、万太郎の人柄の良さを知っているが大切なことを2人に聞く。「お金はどうするのか」だ。もともと寿恵子は裕福な高藤(伊礼彼方)の妾となり、お金に不自由しない生活ができるはずだった。まつは寿恵子の幸せが第一なので万太郎との関係性の方が応援できるものの、やはり大切な一人娘が苦労せずに暮らしていけるのか、万太郎が彼女を食べさせてあげられるのか心配になるのは、母親として当たり前のことだ。プロポーズの際にも“万太郎の勝手ばかり”ということを第三者が指摘したように、今回も改めて2人の結婚に対して重要な問いが投げかけられている。

 万太郎がそれに対し、小学校の教師などもできるが、研究の時間が削られたら本末転倒だからしないと答えるのは考え深い。確かに、他の作品においても小説家や研究職など今すぐその成果が換金されづらい働き方をする者が、稼ぎのために教師になる流れは多い。ただ、その多くがそのまま何年も教師の仕事を続け、最初に掲げていた夢がどんどん遠のくことになってしまうのだ。

 たとえばアメリカを代表する作家の一人、かのスティーヴン・キング。彼も子供の頃から小説家を夢見ていたが、大学卒業後に結婚し、稼ぎのために高校の教師として就職。しかし、放課後の職員会議や自宅でテストの採点などに日々追われるうちに時間とエネルギーが奪われ、小説が書けなくなって絶望した時期がある。万太郎は単純に自分の好きな研究ができなくなるという理由以上に、寿恵子と交わした“何があっても植物図鑑を完成させる”という約束、そして結婚の条件を守るために教職を避けたのだ。

 そして寿恵子と相談して、“八犬伝方式”に図鑑を少しずつまとめて発刊していくことに決めた。全てをまとめて発刊するには時間もかかるし、その分費用もかかる。それに対して少しずつ発刊することによって費用も抑えられ、その売り上げを手にすることができる。何より、『南総里見八犬伝』のように気軽にいろんな人に買ってもらうことが、万太郎の掲げる理想のモデルだった。

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