橋本淳×稲葉友『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』は“明日”が訪れる幸せを教えてくれる

 特筆すべきは、ダブル主演を務めた橋本淳、稲葉友の好演である。橋本は、本作について「絶望の淵に佇んでいた時に、救ってくれたのは他人の存在でした。そんな経験から、ちばしんの心の様相が自分事のような気がしてならない」とコメントを寄せている。

 その言葉通り、彼が演じるちばしんが、ながちんの存在と、旅そのものに救われていく姿は、まるで彼自身が「生き返っていく」物語のようで、その確かな行程は、観客に、彼の出来事を「自分事」として捉えさせずにはいられない。一方、「自称幽霊」のながちんを演じた稲葉友は、真面目なちばしんとは対照的なキャラクターで、煙草を吸う仕草の色気もさることながら、幽霊だと言うわりには湿っぽくない底抜けの明るさの奥に、深い悲しみや後悔を見せつつ、滲み出る元来の優しさが、画面全体を包み込んでいる。

 安倍乙、森高愛、中村まこと、八木響生、飴、マメ山田らオールキャスト総勢35名に及ぶ出演者たちが演じる、主人公たちが出会う人々は、皆可笑しくて不器用そうで、時に、ちょっと切ない。福岡を出て駆け落ち中の年の差カップル、「20年間にんじんしりしり1本でやってる」にんじんしりしりの店を営む夫婦。かなり味のあるバンドメンバー。一見悪者に見える人も、どこか憎めない。だからながちんは何も言わずに抱きしめてしまう。おかしいんだけど、切ない。切ないんだけど、おかしい。だから愛おしい。それは、心が死にかけていたちばしんと、自称「死んでいる」ながちん自身にも共通するおかしみと切なさの共存なのである。

 約15年ぶりに出会った彼らは、空いた時間を埋めようとするかのように遊び続ける。夜の湘南の海。街灯に照らされた歩道橋。画面いっぱいに広がる大きな階段でする「じゃんけんグリコ」。自転車の二人乗り。旅の相棒は真っ赤なラジカセから流れる音楽。新進気鋭のバンド「KiQ」の音楽が、彼らの旅を彩る。まるで「死体を見つける」までの旅の映画『スタンド・バイ・ミー』の少年たちとなんら変わりはないように、30歳を過ぎた男たちは、生と死の間、神様に特別に許されたモラトリアムのような時間の中を、永遠にふざけ、遊び続ける。包み込むのは、夜の闇。彼らを包み込む闇は、映画館という暗闇に、きっとうまく溶け込むことだろう。それは不思議と温かくて、笑えて、泣ける。

 生きているということ。それは、当たり前のように訪れる「明日」があるということだ。ワクワクすることもあれば、時には憂鬱に感じることもある「明日」。「明日」と、その先に広がる未来。それがあるというだけで、どんなに幸せなことか。コロナ禍でいつの間にか人と疎遠になってしまった私たちは、なんとなく、誰かと会うことを後回しにする癖がついてしまった。本作を観たら、きっと、しばらく連絡をとっていなかった誰かに、電話したくなるに違いない。

■公開情報
『よっす、おまたせ、じゃあまたね。』
渋谷シネクイントにて1週間限定レイトショー公開中
6月23日(金)より、アップリンク吉祥寺、kino cinéma 立川高島屋 S.C 館ほか全国順次公開
出演:橋本淳、稲葉友ほか
監督:猪股和磨
脚本:鳥皮ささみ
音楽:KiQ
エグゼクティブ・プロデューサー:竹内崇剛
プロデューサー・編集:篠田知典
撮影:平井諒
照明:富谷颯輝
録音:小濱匠
衣装:庄司洋介
ヘアメイク:山田亜美
部屋装飾:藤本楓
助監督:志筑司
制作担当:井口慶
宣伝美術:橋本興平
製作:「よっす、おまたせ、じゃあまたね。」製作委員会
配給:SPOTTED PRODUCTIONS
©️「よっす、おまたせ、じゃあまたね。」製作委員会
公式サイト:https://yosuoma-movie.com/

関連記事