入門編としても最適&最高 『カード・カウンター』でポール・シュレイダーの沼にハマる

ポール・シュレイダーの本領発揮作は必見

 筆者が本作の補助線として特に参照してほしいポール・シュレイダーの映画は、次の二作品である。

 ひとつはシュレイダーの原案・脚本、ジョン・フリン監督による『ローリング・サンダー』(1977年)。これはベトナム戦争で7年に渡る苛酷な捕虜生活を送り、深いPTSDを負って帰還した元米空軍のチャールズ・レーンが主人公。戦争体験によって刻まれた現世に対する虚無など、多くのポイントで『カード・カウンター』と重なる。本作は前年の『タクシードライバー』の影に隠れがちだが、あのクエンティン・タランティーノのフェイバリット・ムーヴィーとしても知られ、彼は自ら起こした映画会社(ローリング・サンダー・ピクチャーズ)の名に使用しているほど。シュレイダーのフィルモグラフィーでも随一のエキセントリックな傑作。

 もうひとつはシュレイダー自ら監督・脚本を手掛けた『ライト・スリーパー』(1991年)。これは今回、ジョン・ゴード役で出演しているウィレム・デフォーの主演作で、麻薬の売人ジョン・ルトゥアという「ポール・シュレイダー的人物」を体現。映画のオープニングではロックバンド、ザ・コールの「World on Fire」が流れる。なんとその歌詞の一節を、『カード・カウンター』のウィリアム・テルは肩から背中にかけてタトゥーとして彫っているのだ。

“I trust my life to Providence, I trust my soul to Grace.”
(私は人生を天意に、魂を恩寵に委ねる)

 これは明らかにシュレイダー自身が意図した接続点である。『カード・カウンター』の音楽を担当したのは、ブラック・レベル・モーターサイクル・クラブのロバート・レヴォン・ビーン。彼こそはザ・コールのフロントマン、2010年に他界したマイケル・ビーンの息子だ。『ライト・スリーパー』と『カード・カウンター』は同様の精神や主題で繋がる、歳月を跨いだワンセットとして撮られたと言っても過言ではないだろう。

 もちろん他にも『アメリカン・ジゴロ』(1980年)やスコセッシと組んだ『最後の誘惑』(1988年)など重要な必見作は数々ある。ぜひ『カード・カウンター』を入口に、この深い沼にハマってほしい。作家性の純度が高く、同時に娯楽映画としての軽快さも備えた本作は、ポール・シュレイダー入門編としても最適&最高の一本だ。

■公開情報
『カード・カウンター』
6月16日(金)より、ヒューマントラストシネマ渋谷、シネマート新宿ほかにて全国順次公開
出演:オスカー・アイザック、ティファニー・ハディッシュ、タイ・シェリダン、ウィレム・デフォーほか
監督・脚本:ポール・シュレイダー
製作総指揮:マーティン・スコセッシほか
配給:トランスフォーマー
2021年/アメリカ・イギリス・中国・スウェーデン/英語/112分/カラー/ビスタ/5.1ch/R15+/原題:The Card Counter/日本語字幕:岩辺いずみ/字幕監修:木原直哉
©2021 Lucky Number, Inc. All Rights Reserved.
公式サイト:https://transformer.co.jp/m/cardcounter/
公式Twitter:https://twitter.com/cardcounter_jp

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