『あなたがしてくれなくても』と『昼顔』は正反対? 現実度と物語度の違いを読む

 木曜劇場『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)の第6話は痛ましかった。カラダと心がすれ違って、各々程度の差はあれど、浮気してしまった夫婦・吉野みち(奈緒)と陽一(永山瑛太)。「ほんとのことを言ってほしい」というみちの言葉を真に受けたのか、ほんとうのことをぽろっと言ってしまった陽一に、激しく動揺するみち。この場合、陽一の浮気相手・三島(さとうほなみ)の「じょうずに嘘をつかれるほうが楽」という言葉に従ったほうが良かった、あちゃーという感じだが、ここで、みちの言葉に影響されている(と思われる)陽一の心はおそらく、みちにあるのだろうなあと思って切なくなる。

 お互いの心の奥を探り探りしたすえ、最悪の真実が明るみになったときの耐え難い苦しみを、奈緒と瑛太は見事に演じていた。ただただやるせない。この感情、誰もが少なからず味わったことがあるのではないだろうか。

 この瞬間、『あなたがしてくれなくても』は2013年放送の『昼顔〜平日午後3時の恋人たち〜』(フジテレビ系)とは違うのだと確信した。『あなたがしてくれなくても』がはじまる前、予告のムードからして、『昼顔』を令和にアップデートしたドラマであろうと想像した視聴者(ドラマファン)は少なくないと思う。実際、2作とも同じ木曜劇場枠(木曜22時からはじまるドラマ)で、心とカラダが噛み合わなくなった2組の夫婦の物語であり、演出家が西谷弘、プロデューサーが三竿玲子で、美しい画で不貞行為の生々しさを回避しているところ、感情の高まるシーンで挿入歌がかかることなどが共通している。

 相違点は、『昼顔』は井上由美子のオリジナルで、『あなたがしてくれなくても』はハルノ晴の漫画が原作で、脚本家は、市川貴幸、おかざきさとこ、黒谷狭の3人で回していることである。

 だが、『あなたがしてくれなくても』を第6話まで観てみると両者はだいぶ違う。『昼顔』はフィクション度数が高く、『あなたがしてくれなくても』は現実感が高い。『昼顔』は暗喩的、『あなたがしてくれなくても』は直截的。例えば、第1話の冒頭、『昼顔』は対岸の火事、アイス、靴紐……とイメージで語り文学的で、『あなたがしてくれなくても』は、昆虫の交尾、夫婦のいちゃいちゃ、AVとかなりダイレクトであった。そして『昼顔』は平凡な生活に閉じ込められていたヒロイン(上戸彩)が運命の恋という未知の世界を夢見る開かれた物語であり、『あなたがしてくれなくても』はヒロインが穏やかで安定した夫婦生活を求め、家庭に回帰する物語である。同じ不倫でも真逆なのだ。

 『昼顔』は夫に「ママ」と呼ばれるようになったヒロインが、同志のような人物(斎藤工)と出会ったことで、広い世界に出ていこうとする(自分で靴紐が結べなかったヒロインが靴紐を結べるようになることは自立のメタファーだった)。

 『あなたがしてくれなくても』はセックスレスという深刻な問題が不倫のきっかけとなる。みちは夫・陽一の勤務先のカフェで、彼の見た目に惹かれて通うようになったことをきっかけに結婚。陽一は、みちといると楽で、彼女が好きなのだが、なぜか彼女とだけセックスができない。身体機能が心配になって、職場の同僚・三島と致してしまう。三島は陽一を意識するが、彼にはまったくその気がなく、傍から見たらかなり身勝手な人物に見える。

 カラダは反応しないけれどみちのことは大切、三島にはカラダは反応してもただそれだけ、という陽一の微妙な心身の事情を理解できないみちは、ふつうに優しい職場の新名誠(岩田剛典)に惹かれていく。誠は誠で、妻・楓(田中みな実)が仕事に夢中で夫婦らしいことにまったく応じないため、落胆し、みちに惹かれていくのだ。新名は妻にもみちにも献身的で、結果、一番かわいそうな気がするのだが、それはさておく。

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