田中みな実の表情に切なくなる 『あなたがしてくれなくても』新名楓役の儚い美しさ

 仕事を頑張ろうと思うと、家事や家族のことが後回しになってしまう。生活を大切にしようと思うと、隣でバリバリ働いている同僚に遅れをとっているような気持ちになってしまう。仕事も生活もどちらも順調なものにしたい。この単純な願いを叶えることがどうしてこんなにも難しいのだろう。『あなたがしてくれなくても』(フジテレビ系)で久しぶりに料理をしながら新名楓(田中みな実)が考えていたことは、こんなところだろうか。今にも泣きそうな楓の表情にこちらも切なくなる。

 楓はファッション誌の副編集長。常に仕事にプレッシャーを感じており、プライベートを犠牲にして仕事に没頭する日々を送っていた。その甲斐があり、現編集長で楓の憧れである川上圭子(MEGUMI)は、頑張りすぎているような楓を心配しつつも、次期編集長へ推薦することを打診してくれた。仕事は順調だ。だが、楓はある時、はたと気がついてしまう。これまでどんなに遅く帰っても自分を気遣ってくれ、家で仕事をしても許してサポートしてくれていた夫の誠(岩田剛典)の態度が冷たくなっていたのだ。もちろん、楓に心当たりがないわけではない。

 「今日だけ頑張れない?」と体を求めてきた誠に対して、半ば八つ当たりのように受け答えをしてしまったのだ。あの時、誠がただセックスをしたかっただけだとは楓も思っていない。だからこそ楓の中で何かが小爆発してしまったあの時に、誠の中でも何かが変わってしまったことがわかっているのだ。「夫婦関係を立て直したい」という思いで女性が夕飯を作る、休日も朝早く起きて朝食を作るなど、楓が世間一般的な「妻のあるべき姿」になろうとすればするほど、全てが空回っていく。すると順調だったはずの仕事もうまく回らなくなってしまう。楓が抱えているものはとても重い。

 楓を演じる田中みな実は、こうした“何かを背負っている役”がとてもよく似合う。吉祥寺にある謎めいたシェアハウスに引っ越して来た、見ず知らずの6人の生活を描いた『吉祥寺ルーザーズ』(テレビ東京系)で田中が演じた大庭桜は、元女性ファッション誌の編集長で自分にも自信があり、他の住人たちを巻き込んだ上に振り回すようなところがあった。その一方で夫とは離婚調停中で、ふとした時に自分の人生がこれでよかったのかと振り返っていた。

 また、映画『イチケイのカラス』では、イージス艦と貨物船の衝突事故により貨物船の船長を亡くしてしまった妻・島谷加奈子を熱演。加奈子はこの事故に何か裏があると感じており、真実を知りたいあまり傷害事件を引き起こしてしまう。自分の罪を反省しつつも、夫のことを思い、「本当のことを知りたい」と顔をぐしゃぐしゃにするほど泣きながら訴える加奈子の姿に目が惹きつけられた。不思議なことに演じる女性が背負っているものが重ければ重いほど、田中の美しさはどんどん際立つのだ。

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