“バカ騒ぎ”の終局へ 『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』の寂しさを含んだ疾走感

 一方で、主人公ドムを演じるヴィン・ディーゼルは、今までの天井知らずの頼り甲斐を封印し、今回は不安や恐怖を感じる弱い部分を見せ、俳優としてシリーズの新しい風を吹かせている。他のファミリーのメンバーも、今回はモモアにしてやられるため、今までに比べると大人しい印象だ(ただテズを演じるクリス・“リュダクリス”・ブリッジスだけ、妙に格闘シーンのキレが増している。彼はアメリカの刑務所で生まれた格闘技52ブロックを熱心に学んでいるそうだが、着実に強くなっているのが分かる)。しかし、ドムの妻レティを演じるミシェル・ロドリゲスは黙っていない。ごくごく当たり前のように、ご家庭で部屋着のまま拳銃にサイレンサーをつけながら登場するシーンは貫禄十分。そして全世界待望のシャーリーズ・セロンとの“ケジメ”のタイマンは、間違いなく本作のベストバウトだ。

 車をブッ飛ばし、ド派手に爆発し、思い切り殴り合う。アクションは、相変わらず高いクオリティだ。物語の「あれ、この人たちって今、何をやっているんだっけ?」という疑問や、特殊効果の「今のCG、アサイラム(『シャークネード』などの超低予算映画を作る会社)の映画くらいじゃなかった?」といった疑問を吹き飛ばすパワーがある。「極秘機関の秘密研究所」といった小学生マインドな地名字幕に心の「ちょっと待てぃ」ボタンを押すことも、劇中である人物が発する「車で世界を救う時代は終わった!」というセリフに「元からそんな時代はない」とツッコむ隙すら与えない。車、火薬、肉弾、景気のいい音楽、これらの勢いのみで突っ走るのは、まさに『ワイスピ』である。レテリエ監督の観客のニーズに忠実に応える職人気質と、優れた俳優たちの熱演によって、本作は闇雲な勢いに溢れる1本に仕上がった。

 そして、このまま『ワイスピ』は最後まで突っ走るーー本作からは、確かにそんな覚悟も受け取った。2001年から始まり、とうとう2023年まで。思えば遠くへきたもんだ。本作を観て、「20年も付き合ったのだから、あと2~3年、こうなったら最後まで見届けてやろう」と素直に思えた。数百億円をブチ込んだバカ騒ぎの終局へ向けて、がんばっていきまっしょい!

■公開情報
『ワイルド・スピード/ファイヤーブースト』
全国公開中
出演:ヴィン・ディーゼル、ミシェル・ロドリゲス、タイリース・ギブソン、クリス・“リュダクリス”・ブリッジス、ジェイソン・モモア、ナタリー・エマニュエル、ジョーダナ・ブリュースター、ジョン・シナ、ジェイソン・ステイサム、サン・カン、ヘレン・ミレン、シャーリーズ・セロン、ブリー・ラーソン
監督:ルイ・ルテリエ
脚本:ジャスティン・リン、ダン・マゾー
提供:ユニバーサル・ピクチャーズ
配給:東宝東和
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