『らんまん』の根幹にある“名前を知る”という大テーマ 出色の出来だった「高知編」

 竹雄は、タキから「自分の身の振り方を決める自由」を生まれて初めて与えられ、万太郎とともに東京へ行くことを決心する。思いを寄せる綾を支えながら峰屋に残るという選択肢もありながら、「わしにとっていちばん大変な道」を選んだ。茨の道と知りつつ、万太郎が追い求める植物学という「未知なる夢」に、“今は”自分も賭けてみたいと願ったのかもしれない。

 それはひとえに、万太郎と竹雄が「当主と使用人」という立場を超えて、互いに固い絆を築いてきたからだろう。当分のあいだは、まだ万太郎の「面倒見」の役目を担うことになるだろうが、やがて本当の「竹雄だけの道」を見つけていくことを願っている。

 万太郎のモデルである牧野富太郎の名言でもあり、万太郎が声明社の演説台で高らかに叫んだ「名もなき草らあは、この世にないき」という言葉が、このドラマの根底にある。雑草という草などないのと同じように、ひとりひとりの人間も「属性」で括られてはならない。老若男女、当主、使用人──といった、「立場」「役目」だけではない、ひとりひとりの「名前」がある。「名前を知る」ということは、その人、その草花の個性を尊重するということだ。

 ひとりひとりが違った人間で、誰もが自由に生きる権利を持っている。万太郎と竹雄は、「当主」と「使用人」である前に「おまんじゃき」「あんただからやき」と互いを認め、尊重し合ってきた。属性や立場を超え、誰もが「その人」らしい、本来の姿で生きることができる。それが、求めるべき理想の社会なのではないか。21世紀の現在もまだ、この課題は残されたままだ。

 このドラマはきっと、「人はなぜ生まれ、何のために生きるのか」という最も根源的で、最も深遠なテーマに挑もうとしているのではないか。まだまだ不完全で未熟な万太郎が、自分に与えられた「使命」を悟り、あちこちにガタピシとぶつかりながら、自分だけの道を極めていく。今まさに芽吹いたばかりの万太郎、竹雄、綾は、これからどんな色の花を咲かせてくれるのだろうか。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣、広末涼子、松坂慶子ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK

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