『メディア王』登場人物全員に劇的な変化 繰り広げられる最高峰の演技アンサンブル

 第6話「リビング・プラス」に至るとケンダルとローマンの暴走はさらに加速。終局に向かって高まる破滅の予兆は、しかしながら私たちにとってストーリーテリングに身を任せる快感でもある。ウェイスター・ロイコがハリウッドに置く“ウェイスター・スタジオ”が登場。製作現場が混乱に陥っている『カリスピトロン』なる超大作映画が社の屋台骨を揺るがしかねない状態で(数年に1度は起こるハリウッドの風物詩だ)、ローマンは女性重役に対して一方的に解雇を言い渡す。父の姿を追い求め、強権的に振る舞うことが継承者のあるべき姿と思い込んでいるローマンに、法律顧問のジェリー(J・スミス=キャメロン)は黙っていない。ローガン亡き今、お目付け役として兄妹に付き添ってきた長老連中も言いなりではない。ジェリーは言い放つ「あなたは空席を埋めるだけの弱い王」。Peak TVは多くの新星同様、多くのベテラン俳優にもスポットを当ててきたが、悔し涙すら浮かべているように見えるジェリー役のJ・スミス=キャメロンはシーズン4の多くの場面を引き締める名助演である。

 ケンダルはローガンが残していた不動産事業“リビング・プラス”を発表し、ウェイスター・ロイコの評価額を吊り上げて、マットソンによる買収を回避しようと目論む。常に声を張り続け、忙しないケンダルは完全に躁状態で、私たちはまた“やらかす”のではないかと手に汗握る。ジェレミー・ストロングの演技は天才的だ。ケンダルは継承者としての高揚と、その責務にたり得ない未熟な自分という現実を前に「Big Shoes」と連呼しながらメルトダウンしていく。リビング・プラスの胡散臭さは一目瞭然。ケンダルは過大な利益成長率をでっち上げ、ハリウッドの特殊効果で亡き父親に「利益倍増」と言わせてみせる。反発したマットソンのツイートも手伝ってリビング・プラスの話題は沸騰。ケンダルは目的を達成したように見えるが、不動産事業と粉飾評価の組み合わせは2008年の世界金融危機をも思わせる“カミソリの上の綱渡り”。そういえば本作のエグゼクティブ・プロデューサーの1人でもあるアダム・マッケイ監督作『マネー・ショート 華麗なる大逆転』で、リーマンショックの構造を暴く投資家チームの1人を演じていたのもストロングだった。

 シーズン4第6話は海面に浮かぶケンダルの姿で幕を閉じる。呼応するシーズン3第8話のトスカーナでは失意のままプールで酩酊し、あわや溺死という事態だった彼が、ここでは仰向けのままに波間に揺れる。精神状態は一時ばかり上向いているのかも知れないが、ケンダル自身もまた、この成功が一夜限りであり、今にも自身を呑み込みそうな波面に晒されていることを自覚しているのかもしれない。

■配信情報
『メディア王~華麗なる一族~ シーズン4』
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