『らんまん』が自由民権運動を描く意図を考える 万太郎の人生にも多大な影響?

 ある辞書によると“自由”とは自分の心のままに行動でき、束縛や障害がない状態のことをいうのだという。『らんまん』(NHK総合)の第4週目で、万太郎(神木隆之介)は、祖母のタキ(松坂慶子)から学問よりも家業を優先するように言われ、さらに姉と思っていた綾(佐久間由衣)と結婚するようにとも言われる。どちらもタキが家のことや万太郎のことを思って提案したことなのだが、そこに万太郎と綾の“自由”はない。万太郎は自ずと「自由とは何か」を考え出し、当時、高知を中心に盛んになっていた自由民権運動に力を注いでいく。

 自由民権運動とは、天皇を絶対とする国家を作ろうとしている明治政府に対して民主主義的な国家をつくろうと憲法制定や国会開設を求めた社会運動である。万太郎のモデルとなっている牧野富太郎が運動に参加する頃に盛んだったのは、同じく高知出身である板垣退助の活動に共鳴した楠瀬喜多が中心となって行っていた女性解放運動だったと考えられる。これは、夫を亡くした女性が戸主として納税しているにもかかわらず、「選挙資格は、満20歳以上の男子」とされていることに抗議したことから始まった運動である。ドラマの中では、この楠瀬がモデルとされているパワフルな女性、楠野喜江を島崎和歌子が演じている。

 朝ドラでは激動の時代が描かれることが多いため、主人公の人生の転機に今回の自由民権運動のような社会運動が関係していることがある。大阪の貧しい少女が女優を目指す生涯を描いた『おちょやん』もそのひとつだ。女優という職業は、江戸時代には風紀が乱れるという理由で禁止されていたが、明治時代になって西洋文化が大衆にも知られるようになると女優の養成所がつくられるように。さらにそれが平塚らいてうらを中心とした女性解放運動の動きとも重なり、女性の芸能界進出が加速していく。代表的なものが1914年(大正3年)に初公演を行った宝塚歌劇団である。そのような風潮の中、女優としての道を歩き始めたのが『おちょやん』のヒロイン・千代(杉咲花)なのである。

 万太郎は、政治結社のリーダー・早川逸馬(宮野真守)と出会い、「名もなき草らあはこの世にないき」と植物への愛を語ることで、自分たちを「役立たずの雑草」「卑しき民草」と卑下していた人たちに光を与え、“自由”を求めての活動に活力を与えた。長男として、地元の名家の跡取りとして生まれた時から生きる道が決まっていた万太郎。「当主でも、おなごでも、望んだ道を好きに生きれるがじゃろうか?」という逸馬への問いかけは、「自分が心惹かれる植物学の世界を好きなだけ追求したい」という“自由”を求める本人の心の叫びに聞こえてくる。実際、モデルである牧野も高知で、政治結社に所属して社会運動に熱心に参加していたことが知られている。

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