劇場アニメ『らくだい魔女』は今の『きら☆レボ』『CCさくら』 大人女子の“あの頃”が宿る

 誰しも、幼い頃の記憶の中に残っている特別なアニメがあるはずだ。寝ても覚めても頭から主題歌が離れなくなるほど観返した作品、初めての“推し”ができた作品、小さい頃から色褪せずにずっと心の柔らかいところを掴み続けている作品……。現在公開中の劇場アニメ『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』は、そんな大人たちの心の底に眠る作品が詰まった宝箱を開ける鍵のような映画である。

 シリーズ累計発行部数160万部を突破した人気児童書『らくだい魔女』シリーズを劇場アニメ化した本作。児童書ならではの会話のテンポの良さや、擬音が多く楽しく読める要素をまさにそのまま映像に落とし込んだ再現度の高さに、原作ファンも驚かされるだろう。特に劇場アニメ『らくだい魔女 フウカと闇の魔女』は、タイトルにも登場する闇の魔女・メガイラがキーパーソンとなるため、子ども向け映画にしては退廃的な雰囲気を感じさせるダークな世界観も魅力的だ。どこか不気味なはずなのに、かわいらしさを兼ね備えた幻想的な作品世界に、不思議と引き込まれてしまう。

「ママは銀の城の女王さまで、あたしはプリンセスってわけ!」

 自らを“プリンセス”と名乗る主人公のフウカ。しかし、見習い魔女として魔法学校で修業中の彼女は、あわてんぼうでいつも失敗ばかりしている「らくだい魔女」だ。泣いて笑って、時にはちょっと乙女チックな顔をして……。そんなフウカのコロコロと変わる表情の演技は、見ていて飽きない。声優を務める井上ほの花は、自身も原作ファンであることを公表しており、フウカの二転三転する表情に合わせた声の演技には特に注力しているとのこと。原作へのリスペクトを井上が身を持って表現したフウカが、観る者を魔法の国へと誘う。

劇場アニメ「らくだい魔女 フウカと闇の魔女」本予告

 原作の対象年齢が小学校中学年以上に設定されていることから、本作は一般的には子どもへのアプローチがメインとなる作品だ。しかし、劇場に大人が足を運んでみても楽しめる要素が満載であることは間違いない。

「フウカちゃん、目に見えることが全て正しいとは限らないよ」

 例えば、フウカを導く謎の白い蝶のこの台詞。心の隙間にそっと付け入ろうとする闇と対峙し、罠だらけの遊園地で悪戦苦闘するフウカ。本作のキャッチコピー「信じたいってきもちが、チカラになる★★」に重なるように、観客は“何を信じるか”をフウカとともに考えさせられることになる。目に見える善悪だけで物事を判断しない本作の姿勢は、悪役メガイラの救済へと繋がっていく。

 また、本作をさらに盛り上げるのは、フウカたちの成長を見守る大人キャラの存在だ。フウカと冒険をする青の城の王子さま・チトセや、緑の城のお姫さま・カリンも、フウカと同じく親が優秀な魔女(魔法使い)である。

 通常では脇役にされがちな親の存在も、本作では子どもたちのピンチに颯爽と駆けつけ、我が子を守るために奮闘する一人ひとりのキャラクターとして丁寧に描く。フウカの母がただの“母”ではなく、“王国を救った銀の城の魔女であり、フウカを心配する一人の母”として描かれているのも、役割に囚われない多面的な見方が象徴されているように感じられた。本作を大人の物語として捉え直してみるのも、また新たな楽しみ方なのではないだろうか。

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