赤名リカと葉山南、“暴走系ヒロイン”はなぜ圧倒的支持を得た? 時代背景から紐解く
『ショムニ』が切り開いたスーパーヒロイン路線
一方、働く女性の強さと男社会である会社の困難を描いたお仕事ドラマが1998年の『ショムニ』(フジテレビ系)だった。本作は、女子社員の墓場と呼ばれる“ショムニ”こと総務部庶務二課で働く坪井千夏(江角マキコ)を中心とした6人のOLグループを主人公にしたコメディだ。会社内の男女格差の描き方が露骨で、だからこそ男たちを跳ね除ける千夏たちの活躍は爽快だった。しかしその姿は逆説的に、社会で女が男と対等に渡り合おうとすると、人間離れしたスキルと内面の強さが必要だという限界を描いていたようにも感じる。
『ショムニ』が切り開いたスーパーヒロイン路線は、『ハケンの品格』や『家売るオンナ』といった日本テレビ系のお仕事ドラマに引き継がれていくのだが、時代が進めば進むほど、ヒロインが感情を表に出さない機械的な喋り方をするロボットのような存在に変わっていく。そこには社会で男のように働くためには、心を閉ざして機械のように振る舞わなければ生きられないという働く女性の痛みが現れていたように感じる。
2010年代後半以降のヒロインが開放される物語
その反動もあってか、2010年代後半に作られた『義母と娘のブルース』(TBS系)や『獣になれない私たち』(日本テレビ系)といったお仕事もののドラマは、社会で働くために背負わされた様々なしがらみからヒロインが開放される物語となっている。
その最新型と言えるのが、2022年に放送されたドラマ『エルピスー希望、あるいは災いー』(カンテレ・フジテレビ系、以下『エルピス』)のヒロイン・浅川恵耶(長澤まさみ)だ。彼女はテレビ局のアナウンサーという花形職業だが、男社会であるテレビ局のしがらみの中で疲弊しており、いつも自信なさげで、体調を壊すことも多い。スーパーヒロインが巨悪に立ち向かう物語を本作に期待しているとフラストレーションが貯まるが、全話通して観ると彼女の抱える弱さや不安を丁寧に描いた上で正義を貫こうとする姿を描いたことがもっとも重要だったのだと感じる。
『エルピス』と同時期に放送された『ファーストペンギン!』(日本テレビ系)の中で漁師たちと鮮魚直売事業を起こしたシングルマザーの岩崎和佳(奈緒)が、農林水産省の溝口静(松本若菜)から水産業界を救う「ジャンヌ・ダルクになってもらえませんか?」と言われる場面がある。
聖女として担がれたジャンヌ・ダルクが最後は火炙りになったことを知っている和佳は困惑して「旗振り役」くらいにしてほしいと言うのだが、おそらく赤名リカや葉山南は、男社会に立ち向かう働く女性にとってのジャンヌ・ダルクとして、1990年代に担ぎ上げられた存在だったのだろう。
対して、近年のテレビドラマは、男社会と戦うジャンヌ・ダルクとしてヒロインを担ぎ上げるのではなく、彼女たちの生身の困難を浮き彫りにすることで、男社会の保守性を露呈させようとしている。爽快感は薄いが、ジャンヌ・ダルクを求め消費する時代よりは100倍マシである。