『大奥』現代に繋がる課題を示したシーズン1最終回 冨永愛の力強い一言が希望を残す

 死の間際、遠き後世の姿を夢に見る八代将軍吉宗(冨永愛)。渋谷のスクランブル交差点を歩く一人の女性が後ろを振り返る。それは自分と瓜二つの顔をした女性だった。

 男子のみが罹患する致死率80%の奇病・赤面疱瘡の蔓延で、男女の役割が逆転したパラレルワールドの江戸時代を描くNHKドラマ10『大奥』。その心震える圧巻のラストは、現代を生きる我々に希望と課題の両方を託した。

 吉宗が娘の家重(三浦透子)に将軍職を託した頃、とある物が見つかる。御右筆・村瀬(石橋蓮司)の死とともに紛失した「没日録」の続きだ。そこには徳川宗家の血筋ではない吉宗が将軍になれた理由を明かす、衝撃の事実が記されていた。

 大奥の創設者・春日局(斉藤由貴)の「この国は赤面ゆえに滅ぶ」という予言から名付けられた没日録。そこに綴られてきたのは、日本が滅ぶやもしれぬ未来に抗うという使命を託され、ゆえに心を踏みにじられてきた男女の物語である。

 徳川の血を存続させるという目的のために大奥にさらわれてきた三代家光の娘・千恵(堀田真由)と元僧侶の有功(福士蒼汰)。同じ痛みを抱える2人は惹かれ合うも、子が出来ないという理由で正式な夫婦にはなれなかった。愛する人が自分ではない誰かに抱かれる、胸が張り裂けそうなほどの苦しみを経験した有功は大奥総取締に就任。本来は世継ぎを産み、育てるだけの場に自分や千恵が抱えるような傷を癒し、慰める学問や行事を設けた。

 それはのちに、千恵の娘である綱吉(仲里依紗)の心にも安らぎを与える。父・桂昌院(竜雷太)にただ子を為すことだけを期待される綱吉にとって、唯一自分らしくいられたのが学問に打ち込んでいる時間だった。だが、松姫が亡くなって以降はそれすらも効力を持たぬほどに毎晩男たちと褥を共にし、心をすり減らしていく。

 そんな中、「生きるということは、女と男ということは、ただ女の腹に種を付け、子孫を残し、家の血を繋いでいくことではありますまい!」と言ってくれたのが、有功以来の大奥総取締となった右衛門佐(山本耕史)だ。貧しい公家出身の右衛門佐もまた大奥に来る以前は種馬扱いされてきた。彼の言葉でようやく自らを子孫を残すという使命から解放することができた綱吉は、姪にあたる綱豊(のちの家宣)を養子として迎える。

 だが、家宣の子である七代将軍家継は幼くして死去。ここで宗家の血筋は絶え、紀州徳川家から吉宗が八代将軍に就任した。彼女はこれまでの歴史を知り、赤面撲滅という根本の問題解決に注力する。一方でそちらに心を割くあまり、父親は誰でもいいから子を為そうと無意識のうちに大奥の男たちを種馬扱いしてしまっていたことに気づいた吉宗。そんな自分を「何一つ欠けるところがない者などいない」とサポートし続けてくれた杉下(風間俊介)に、彼女は大奥総取締と、早くに他界した娘・家重(三浦透子)たちの父親代わりを任せる。

 杉下は有功と同じく子種を持っていない。けれど、男女の仲ではない吉宗と夫婦になり、血の繋がらぬ子どもたちの父となり、部下たちに慕われる古参となり、最後は多くの人に囲まれ生涯を閉じた。右衛門佐が言った通り、子孫を残すことだけが人生じゃないということを杉下は証明したのだ。

 子を産み、育てる場として設けられた大奥の性質上、有功たちのように苦しんだものは大勢いる。しかし、彼らはその苦しみを後世に残そうとはしなかった。誰もが自分たちの生きる時代よりも後の世が良いものとなるように死力を尽くしてきた。そして生まれた新たな価値観、例えば綱吉が夫や側室を持つのであれば、美しくあらねばという自らの考えを否定した幼き日の吉宗(清水香帆)に、吉宗が金は卑しいものという価値観を覆してくれた龍(當真あみ)に彼ら自身救われることもある。

関連記事