アニメ『ブルーロック』が“hype”な理由 強調される“個”の哲学と呼応する社会

 そんな潔に周囲が感化され、同じように他者との化学反応の中から“独力”を伸ばす猛者たちが中心に描かれる第2クール、第2次セレクション。彼らの成長ぶりもまた、“hype(興奮する)”な要素である。大体の問題は試合中にぶつかるため、皆がプレー中に自分の殻を破ることを強いられるのだ。ただでさえ誰が勝って負けるのか、試合そのものの展開が気になって仕方ないのに、そこに屈指の映像表現で(常に“完璧”ではないが)登場人物のレベルアップの様子が描かれるわけで、これに興奮せずにはいられない。映像で見せるサッカーだけでなく、「視覚的に今何が起きたのか」を論理的に言語化していく点も面白い。その言葉は決してサッカーだけに当てはまることではなく、あらゆることに通じる哲学なのだ。そして、その思考プロセスを言語化する役割を担っていたのが絵心甚八だったのに対し、エピソードが進むにつれて(特に第2クールでは)主人公の潔にその役が回ってきたのも、彼自身が自分で考えられるようになるほど成長したことを表している。

TVアニメ『ブルーロック』スポットムービー・馬狼照英編

 成長するのは主人公の潔だけではないことを前述したが、特にその中でも興味深いキャラクターがいる。第2話から登場する馬狼照英だ。彼は自分を“キング”と呼び、周りの人間を自分にボールを運んでくる下僕と認識している。個性的なキャラが多い『ブルーロック』の中でも今のところダントツで癖の強い人物だ。そんな彼が第2次セレクションで生まれて初めて“挫折”を味わう。それも、彼が「ヘタクソ」と言っていた潔に、人の話を聞かない馬狼こそエゴを優先しすぎて「もったいない」と言われ、諦められてしまうのだ。大概、こういう展開になれば馬狼は改心して潔の言葉に耳を貸し、自分を変えようとする。しかし、馬狼は自分自身のスタンスを捨てずに、それでも潔の言葉に耳を貸してさらにより彼らしいパフォーマンスを突き詰めるのである。キャラクターにこれまでのキャラを捨てさせ、無理矢理にでも改心させることは脚本上これまでいくつも見てきたが(特に悪い奴が贖罪するシーンなど)、馬狼のようにヒール役としての自分を曲げず、さらに進化をする力強さには感銘を受けた。「自分の武器とは何か」という問題提起の先にある、「自分の思う、自分らしさを持ち続けること」を大切にするメッセージ性も、最高に“hype”だ。

 絵心の台詞を通して語られる本作の哲学や持論も、正論というかかなり的を射ていることもあって、時々聞いていて頭が痛くなる。それに、本作はFIFAワールドカップで日本が敗退したタイミングに放送されていただけでなく、試合に負けて泣き崩れた選手の映像を入れつつ日本フットボール連合の帝襟アンリが「このままでは日本サッカーは未来永劫W杯優勝は不可能」なんて台詞を言うものだから、変な汗さえかいてしまう。「言っていることはわかるけど、わかっていてもできないのが現実だよ」とか言いたくなるかもしれないし、「そんな技、現実では無理だよ」と本作の最高に熱い試合の描写を非現実的だと思うかもしれない。

TVアニメ『ブルーロック』スポットムービー・凪 誠士郎&御影玲王編

 それでも、三笘薫選手はアニメ『ブルーロック』に登場する凪誠志郎と同じ技をこの前のワールドカップで決めていたし、フランス代表のキリアン・エムバペ選手も潔が第1次セレクションで繰り広げたシュートと全く同じ、ダイレクトシュートを決めていた。「そんな決め技、漫画やアニメの世界にしか存在しないから!」と思うようなことを、現実世界でやってのけてしまう人がいる。実際、『ブルーロック』に登場する技術などは実在するプレーから着想を得ているものも多い。そう考えると、本作で描かれるものの説得力が一気にグンと増すものだ。第1期も残り3話。試合のたびに成長し続ける、最高に“hype”な主人公と演出、物語から目が離せない。

■放送・配信情報
『ブルーロック』
テレビ朝日系全国ネット“NUMAnimation枠 ”にて、毎週土曜25:30~放送
BS朝日にて、毎週土曜26:00~放送
AT-Xにて、毎週日曜21:00~放送
各配信サイトにて、毎週土曜26:00~配信
原作:金城宗幸
漫画:ノ村優介(講談社『週刊少年マガジン』連載)
監督:渡邉徹明
副監督:石川俊介
シリーズ構成・脚本:岸本卓
ストーリー監修:金城宗幸
コンセプトアドバイザー:上村泰
メインキャラクターデザイン:進藤優
キャラクターデザイン・総作画監督:田辺謙司、戸谷賢都
チーフアクションディレクター:東島久志
アクションディレクター:坂本ひろみ、松本剛彦
プロップデザイン:興津香織、東島久志
衣装デザイン:中島裕里
作画特殊効果:あかね
色彩設計:小松さくら
特殊効果:山田可奈子
美術設定:杉山晋史
美術監督:高木佐和子、小島俊彦
背景:スタジオワイエス、プランタゴゲームス、GKセールス
撮影監督:浅黄康裕
撮影:チップチューン
3DCG ディレクター:広沢範光
3DCG:オーラスタジオ
ビジュアルコンセプト:山下敏幸(ハイパーボール)
特殊効果処理:山下敏幸、三皷梨菜
2DCGモニターグラフィック:浅野恵一(emitai)
編集:長谷川舞(エディッツ)
音響監督:郷文裕貴
音響制作:ビットグルーヴプロモーション
音楽:村山☆潤
アニメーションプロデューサー:平野 強
アニメーション制作:エイトビット
キャスト:浦和希、海渡翼、小野友樹、斉藤壮馬、中澤まさとも、松岡禎丞、千葉翔也、仲村宗悟、梶田大嗣、綿貫竜之介、市川蒼、鈴村健一、神谷浩史、幸村恵理、諏訪部順一、花江夏樹、鈴木崚汰、鈴木崚汰、島﨑信長、内田雄馬、興津和幸、内山昂輝、小西克幸、立花慎之介、櫻井孝宏
オープニング主題歌:ASH DA HERO「Judgement」
エンディング主題歌:UNISON SQUARE GARDEN「Numbness like a ginger」
©金城宗幸・ノ村優介・講談社/「ブルーロック」製作委員会
公式サイト:https://bluelock-pr.com
公式Twitter:https://twitter.com/BLUELOCK_PR

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