『舞いあがれ!』リュー北條が体現するプロの姿勢 史子への“エゴイスト返し”も秀逸!
「本当に歌集を出したいと思っている?」という問いも、そこに踏ん切りがつかずに悩んでいる貴司の心を見透かしたうえで、リュー北條は投げかけたのだろう。貴司は彼の言うことが辛いけど、それも事実であると気づき始めた。悩んでいるけど、彼の提案の正しさも頭ではわかっていて、受け入れ始めている。それを力強い表情で体現する赤楚衛二は、貴司役でますます繊細な演技に磨きをかけた。そんな素晴らしいやりとりに「読み取る力がないのでは!?」と横槍を投げてくる『ミザリー』のアニー・ウィルクスのような史子にも、「なんでいるの?」と開口一番に聞いたり、エゴイスト呼びした彼女に「君の方がエゴイストだよ。自分好みの綺麗な短歌だけを書いていてほしいんでしょ。美しいソプラノを聴くために少年の成長を止めたい残酷さを感じるね」と気持ちの良い返しをしたり、今回でリュー北條はかなり株を上げた気がする。
並列して描かれた、御園の舞に対するインタビューとの対比も興味深かった。御園は最初からタメ口だったり、何のための取材かもハッキリ明かさずに「恋人はいるの?」と聞いてきたり、とにかく品があるようでない。女性にフォーカスして取材を行っているから一見先進的な記者のように見えるが、やっていることは一昔前(今もいるけど)のデリカシーに欠けた記者のそれと同じである。“女性記者”のイメージがプログレッシブで、男性編集者のイメージが粗暴、のような固定観念を利用し、「プロらしく仕事することは何か」ということを全体のテーマとして提示しつつ、創作においての議論も展開された第93話。さて、恋についての歌を貴司が書いた時、史子はちゃんと“一番の理解者”として彼の気持ちがわかってあげられるのだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『舞いあがれ!』
2022年10月3日(月)から 2023年4月1日(土)まで
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:福原遥、横山裕、高橋克典、永作博美、赤楚衛二、山下美月、目黒蓮、長濱ねる、高杉真宙、山口智充、くわばたりえ、又吉直樹、吉谷彩子、鈴木浩介、高畑淳子ほか
作:桑原亮子、嶋田うれ葉、佃良太
音楽:富貴晴美
主題歌:back number 「アイラブユー」
制作統括:熊野律時、管原浩
プロデューサー:上杉忠嗣
演出:田中正、野田雄介、小谷高義、松木健祐ほか
主なロケ予定地:東大阪市、長崎県五島市、新上五島町ほか
写真提供=NHK