『舞いあがれ!』鈴木浩介なくして五島パートは成り立たない 作品世界を作る手堅い演技
再び長崎の五島を主な舞台とするパートにかえってきた朝ドラ『舞いあがれ!』(NHK総合)。場所が変われば当然、登場するキャラクターたちも変わる。ヒロイン・舞(福原遥)を取り巻く人々は若者たちではなく、大人の者たちが中心に。物語を彩るのはどんな人々だろうか。ここではそのうちの一人を演じる鈴木浩介に注目してみたい。
第8週から第11週まで4週間続いていた「航空学校編」は、舞が空を駆けるパイロットになるための重要なタームであったが、アクロバティックな物語展開についていくのがどうにも大変だった。いまのメイン舞台である五島はというと、幼い頃の舞の人格形成に多大な影響を与えた土地であり、これから先の物語の展開において、こちらはこちらでまた重要なものになりそうである。舞はもう幼子ではない。事実、かつての彼女とどこか重なる少年・朝陽(又野暁仁)が登場し、舞は大人の一人として彼と交流。舞の精神的な成長が見られるパートなのだ。脚本家もこの第12週「翼を休める島」からメインライターの桑原亮子に戻った。人々の心のふれあいを丹念に描き、じっくりと積み重ねていくものになりそうである。
『舞いあがれ!』第12週は「作品全体の中でも大事なポイント」 桑原亮子脚本をCPが語る
『舞いあがれ!』(NHK総合)の脚本が、第12週「翼を休める島」より再び桑原亮子に戻っている。 『舞いあがれ!』は、連続テレ…
そんな五島パートに登場する者たちの一人が、鈴木演じる浦信吾。役場に勤める彼は、舞の母・めぐみ(永作博美)の同級生であり、舞の祖母・祥子(高畑淳子)とは家族ぐるみでの付き合いがある仲だ。これまでにもたびたび登場しては、舞の成長を喜ぶ様子を見せてきた。鈴木の演技は自身の個性を押し出すようなものではなく、あくまでも作品世界の一部に、自然あふれる五島という土地に息づく者たちの一人であることに徹しているよう。繰り返すが五島は、舞の人格形成に影響を与えた土地だ。つまりこの浦信吾は、現在の“舞の一部”のような存在でなければならない。それは寛大な心と強い意志を持った祥子や、信吾と同じく朗らかな性格の木戸豪(哀川翔)らにもいえることである。求められるのは経験値がものをいう、手堅い演技だろう。
本作の公式ガイド『連続テレビ小説 舞いあがれ! Part1』(NHK出版)にて鈴木は、どことなく五島に似た漁師町が自身のルーツにあることを述べたうえで、その雰囲気を大事にしてこの信吾を演じたいと語っている。“田舎特有のおおらかさや人との距離の近さを大事に”ということである。つまり鈴木は自身の役割として、劇中の“五島の環境づくり”を目指しているわけで、それは前述したとおり、作品世界の一部であることに徹している現在の彼の演技から見て取れるものだ。