クリスマス映画はなぜ大量に作り続けられるのか? SNSの普及で変化した需要と供給

 今年も残すところあと僅か。そんな時期になると公開されるのが、「クリスマス映画」だ。『素晴らしき哉、人生!』(1946年)や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(1993年)、『34丁目の奇跡』(1994年)や『サンタクローズ』(1994年)といった直接的な作品から、『セレンディピティ』(2001年)や『ハピエスト・ホリデー 私たちのカミングアウト』(2020年)など、クリスマスというイベントに恋人や家族と過ごすものも入れると大量の「クリスマス映画」が制作されていることになる。

 しかしどうだろうか、近年において劇場で、特に海外の「クリスマス映画」を観たという記憶があるだろうか……。実はどんどん「クリスマス映画」の劇場公開がなくなってきているのだ。

 その理由は、ほとんどが配信スルーとなっているからだ。『ホーム・アローン』(1990年)のリメイク『ホーム・スイート・ホーム・アローン』(2021年)もディズニープラスの配信。ライアン・レイノルズ、ウィル・フェレル、オクタヴィア・スペンサーという豪華スターの共演映画『スピリテッド』(2022年)であってもApple TV+配信映画。リンジー・ローハンの本格復帰作『フォーリング・フォー・クリスマス』(2022年)もNetflix配信映画だ。

 他にも『クリスマス・ウィズ・ユー』(2022年)や『クリスマスは恵み満ち満ちて』(2022年)といった作品も配信となっている。

 ところがその現象は、近年に始まったことではない。クリスマス映画というのは、もともと劇場映画よりも低予算のテレビ映画として制作されることが多い。日本にはほとんど輸入されてこないから実感がないかもしれないが、アメリカには、ホールマーク・チャンネルというケーブル局があり、その中でレイチェル・リー・クック主演の『A Blue Ridge Mountain Christmas(原題)』(2019年)やオータム・リーザー主演の『A Glenbrooke Christmas(原題)』(2020年)といった、クリスマス映画に限らない季節映画を毎年大量生産している。また他のテレビ局もこぞってテレビ映画を制作していることからも、クリスマス映画はテレビで観るものだという印象が根付いてしまっているのだ。

 逆に劇場公開規模となると、ファンタジー要素を強めに加えたものだったり、アニメ映画でないと利益を出すことができない。そして最大の問題点は、ソフト化のタイミングが難しいことだ。作品によって前後はするものの、だいたいの作品は公開後3~4カ月ほどでソフト化される。しかし季節映画、特にクリスマス映画の場合は11~12月に公開したとするとして、ソフト化が春頃になってしまう。ジム・キャリー主演の『グリンチ』(2000年)も12月に公開されて、タイミングが難しかったのだろう、ソフト化されたのは7月だった。

 DVDが普及したことで、映画自体もソフトの売り上げを考慮して制作される傾向も強くなった。そうなってくると、ソフト化時期の心配をしなくて済む配信サービスやテレビ放映の方が都合良いのだ。

 ティーンムービーや恋愛映画のように、企画が通る希望も多少はありながらも、実際問題として劇場公開が回避されて流れてくるものとはまた違って、クリスマス映画の企画は、そもそも劇場公開映画としては検討もされないというのが通例になってしまっている。それなのに、需要はそれなりにある。

 一方で、ケーブル局制作の作品だけでも溢れているというのに、それに加えて、それぞれの配信サービスは子どものユーザーを獲得するために、クリスマス映画を欲する結果として、大量にクリスマス映画が今も毎年制作されているのだ。ところが一般のユーザーがクリスマス映画を観るといってもせいぜい2、3本、もっと少ないかもしれない。つまり供給数が多すぎて割に合っていないのだ。需要と供給のバランスが完全に崩壊している。

関連記事