だが、恵那は苦しい心境を拓朗と共有することができない。恵那の言う「私たち」は『ニュース8』のスタッフを指す言葉になっていて、拓朗との心理的な距離は開いていた。「真実がどうでもいいなんてそんなわけない」と言いながらも、現場の複雑さを挙げ、「私だけの番組じゃない」と抗弁する恵那の言葉は拓朗にとって言い訳でしかなく、一歩引いたスタンスにわが身を置いているように見えてしまうのだろう。恵那の“変心”の背後には、権力の圧力に逆らえず「忖度」を「配慮」と言い換える事情も示唆された。

「『浅川さんも大変っすね』って言って何か変わります？　浅川さんの気が楽になるだけですよね」
「君はお金持ちのおぼっちゃんだから、そんな理想を言っていられるんだよ」

　どちらが正しいという問題ではなく、もはや違ってしまっている。恵那は現実の泥沼に足を取られそうになりながら必死にもがいていて、拓朗も尖ろうとしているわけではなく、無心に真実を追いかけているだけだ。それなのに踏みしめる地面の違いが別々の場所に2人を運び、気づいた時には同じだったはずの景色にずれが生じていた。第8話ラストで絶望的なしっぺ返しを食らった拓朗を見るにつけて、人と人と結びつけるのは真実や正義ではなくて、相手を信じられるかどうかなのだと痛感させられる。

■放送情報
『エルピスー希望、あるいは災いー』
カンテレ・フジテレビ系にて、毎週月曜22:00～放送
出演：長澤まさみ、眞栄田郷敦、三浦透子、三浦貴大、近藤公園、池津祥子、梶原善、片岡正二郎、山路和弘、岡部たかし、六角精児、筒井真理子、鈴木亮平ほか
脚本：渡辺あや
演出：大根仁ほか
音楽：大友良英
プロデュース：佐野亜裕美（カンテレ）
制作協力：ギークピクチュアズ、ギークサイト
制作著作：カンテレ
©︎カンテレ
公式サイト：https://www.ktv.jp/elpis/
公式Twitter：@elpis_ktv