『アトムの童』が踏み込んだ、“ゲームと社会”の関係性 バディものとしての面白さも
対して、新しい試みだと言えるのが、那由他の人物造形である。那由他は天才ゲームクリエイターで直感的に動くところがあり、大胆な行動をとっては周囲を驚かせる。一方、那由他と共に「ジョン・ドゥ」を立ち上げた菅生隼人(松下洸平)は、論理的思考の持ち主で那由他の大胆な発想を補強して発展させるアドバイスをおこなう。二人が時に反目しながらも助け合いながら、ゲーム制作や資金調達を大胆にやってのけてしまう姿は、実に痛快で二人のバディものとしても楽しめる。
那由他と隼人は、インターネットの普及とグローバル化がもたらした恩恵を受ける才能ある若者たちの象徴だ。彼らのような天才クリエイターは世界と繋がっているため、日本の問題など関わらなくても生きていける些末なことだった。しかし、那由他はゲーム開発をする中で、富永海(岸井ゆきの)たち「アトム玩具」の人々や、ゲームをプレイしてくれたお客さんたちと直接触れ合う中で、少しずつ考え方が変わっていく。
その様子が面白く描かれていたのが「Stage6」だ。学童保育で知り合った子どものために、那由他は隼人と共に、登下校を追体験できるシリアスゲーム「学校へ行きたい!」を開発する。開発する中で那由他は、実際に街を歩いて危険な場所を調べ、現実のデータをゲーム内に反映させていくのだが、街で暮らす様々な人たちと知り合ったことで、ゲームの社会的役割について実感するようになる。この回のみ、脚本は神森万里江ではなく畠山隼一が担当している。前半と後半をつなぐ箸休め的なエピソードだが、ゲームと社会の関係性に踏み込んだ傑作回だった。
ゲーム業界という最先端技術の世界を題材としているが、核にあるのは社会における人と人の関わりであり、それを笑って泣ける人情ドラマに落とし込めんだ絶妙なバランス感覚こそが、本作の魅力だろう。「古さ」と「新しさ」は対立するものではなく、お互いを活かすものなのだと『アトムの童』は、教えてくれる。
■放送情報
日曜劇場『アトムの童』
TBS系にて、毎週日曜21:00~21:54放送
出演:山﨑賢人、松下洸平、岸井ゆきの、岡部大(ハナコ)、馬場徹、栁俊太郎、六角慎司、玄理、飯沼愛、戸田菜穂、皆川猿時、塚地武雅(ドランクドラゴン)、でんでん、風間杜夫、オダギリジョー
ナレーション:神田伯山
脚本:神森万里江
演出:岡本伸吾、山室大輔、大内舞子、多胡由章
プロデュース:中井芳彦、益田千愛
音楽:大間々昂
製作著作:TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/atomnoko_tbs/