是枝裕和×坂元裕二、似た物同士もアプローチは正反対? 映画『怪物』の鍵は川村元気か

 「是枝裕和」「坂元裕二」。日頃から映画やドラマを観る習慣がある人、エンタメに携わる人にとってはもちろん、1年間に映画は1本しか観ないという方にとっても、2人の名前は聞いたことがあるという人物ではないだろうか。映画やテレビドラマの宣伝において、ほとんどが主演を中心としたキャスト陣が中心となる現在、数少ない“名前”で観客や視聴者を集めることができる2人と言えるだろう。

 そんな2人が映画でタッグを組むという“事件”が起きた。タイトルは『怪物』。先行して公開されたビジュアルと映像には子供2人の後ろ姿が映っているのみで、あらすじや設定もまだ明かされていない。是枝裕和、坂元裕二、2人の作品を観続けてきたライターの成馬零一氏は、今回のタッグは「ある意味必然だった」と語る。

「2人は2015年に発売された書籍『是枝裕和 対談集 世界といまを考える1 』(PHP文庫)で対談をしているのですが、今読むと面白いですね。対談の序文で是枝さんは『自分がいま生きていて、何に引っかかるかというポイントがとても自分に近いように思う』と坂元さんに対する印象を書かれているのですが、加害者遺族や疑似家族をはじめとして、2人が手掛けてきた作品を振り返ると、確かに共通点が多いんです。この対談でも、坂元さんは『そして父になる』に対して『もし映画になる前に是枝さんがボソッと口にしていたら、「その題材、僕にください」といったと思う』と発言しています。ですので、2人の“相性”はとてもいいと思います」

 その一方で、「作家としての明確な違いがある」と成馬氏は続ける。

「対談の中で是枝さんは『坂元さんのドラマは圧倒的に台詞が多くて、ワンシーンが10分とか長いですよね。僕はそういうシーンは書かないし、書けないし、本来的にはそんなに好きではないのですが、なぜか目が離せない』と話しています。是枝さんの言葉通り、坂元さんの脚本の特徴は長台詞で、登場人物のセリフのセッションで関係性を描いていくところにあります。一方、是枝さんは自身の監督作で脚本も手掛けていますが、役者の演技や現場での空気感などを切り取り映像で語っていく作家です。監督と脚本家という違いがあるのはもちろんですが、物語の構築の仕方は正反対のアプローチだと言えます。加えて、映画が主戦場となっている是枝さんとテレビドラマが基本的にはメインとなっている坂元さんという違いもある。大ヒットした『花束みたいな恋をした』のように坂元さんも映画の脚本を手掛けているのですが、監督がTBSドラマの演出を務めている土井裕泰さんということもあり、アプローチの仕方はかなりドラマ的だったように思います。言葉ではなく画で見せることができる映画の場合、ドラマ以上に現場や編集段階でセリフを丸々カットするケースも出てきます。果たして、是枝さんは、坂元さんの書いたセリフを一語一句変えずに撮るのか。それとも脚本を咀嚼して、現場の状況にあわせてカットする場面も出てくるのか。制作過程で2人がどのようやりとりをしていたのか、非常に気になります」

 現在分かる情報はタイトル『怪物』と子供2人の後ろ姿を捉えたビジュアルのみ。成馬氏は「“持ち味”を封じられた坂元さんがどんな新境地を見せてくれるか」とその期待を語る。

「大人キャストいうよりも、ビジュアルに写っている子供2人が主人公になるのでしょう。とすると、柳楽優弥さんのデビュー作となった映画『誰も知らない』のようになるのか。ただ、それだと果たしてセリフの多い坂元脚本と相性がいいと言えるのか。坂元さんが子供をメインに据えた脚本作は『さよならぼくたちのようちえん』(日本テレビ系)、幼少期の芦田愛菜さんが出演した『Mother』(日本テレビ系)などないわけではないのですが、『大豆田とわ子と三人の元夫』(カンテレ・フジテレビ系)や『カルテット』(TBS系)など、演技巧者と言われる俳優たちによって成立した作品が多いですよね。芦田さんのような天才子役であれば、坂元さんの脚本にも応えられると思うのですが、果たして……。また、坂元さんがテレビドラマで持ち味を発揮する要素として、リアルタイム性というものがあります。自分で書きながら新たな考えが浮かんだり、役者の演技や視聴者の方々の反応をふまえて変更したり。『大豆田とわ子と三人の元夫』の中盤に登場したオダギリジョーさんが演じたキャラクターも、当初は予定になかったそうなんですよね。そんな直近作の“持ち味”を封じられた坂元さんがどんな脚本を作り出すのか。是枝さんとのやり取りの中でどんな化学反応が起きるのか、非常に楽しみですね」

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