ユク・ソンジェが演技ドルとして進化 『ゴールデンスプーン』は予想の斜め上を行く物語に

 本作は、同名の人気ウェブトゥーンを原作に脚色された作品だ。生まれた家による財力や職業でランク分けする「スプーン階級論」をテーマに、“親を替えることができる金のスプーン”というファンタジーを織り交ぜながら格差社会をリアルに描いた。物語の中で突きつけられる人間の欲望や、“愛かお金か”の二択など「もし、自分だったら……」と考えさせられる人も多かったのではないだろうか。

 スンチョンが“金持ちになる金のスプーン”を手にした時、スプーンは1本で、スンチョンがお金持ちと貧乏暮らしの間で揺れ動く様子を描くのかもしれない……と予想していたのをあっさりと裏切るように、老婆の金のスプーンは大盤振る舞いだ。そしてそれに翻弄される人々も。人生の一発逆転を狙う貧困者が大金持ちになれるチャンス。それを掴んだ代償のことは説明されない。

 「貧乏は恐怖だった」というスンチョン。「恐怖に負けた」というスンチョンにジュヒは「恐怖を和らげてくれる一番の方法はね、手をつなぐこと、手をつないでくれる人がいれば全然怖くないの」と語りかける。欲望に揺れたスンチョンに対し、ジュヒはずっと愛の価値を信じていた。

 普遍的な愛とお金を描いた物語の中で登場人物たちは、愛とお金と欲望とで次々に選択を迫られる。その都度、何を選択し、その結果どんな人生を歩むことになるのかを見せられるが、不思議な老婆がもたらした金のスプーンの代償はあまりにも大きいものだった。自分の力で得たものではないものを享受したことに対する代償の描き方や社会風刺は、どこか寓話のよう。ファンタジーではあるが、甘くキラキラしたものではない。人々の精神性を描き、教訓や啓蒙啓発の要素がある本作は、イソップ物語や『世にも奇妙な物語』(フジテレビ系)のような、何とも言えない余韻を感じさせた。

 主演を務めたユク・ソンジェは、欲にまみれる悪の顔も見せ、演技ドルとして幅の広い演技に挑戦した。また、テヨンを演じたイ・ジョンウォンの繊細で雰囲気のある演技もすばらしく、今後の活躍が期待されるだろう。アイドルたちが主役級を演じることで話題性の高い作品だったが、ストーリーも最後の最後まで気の抜けない展開が用意されている。アイドルたちの演技によって、華やかながらもメッセージ性の高い作品となっていた。

■配信情報
『ゴールデンスプーン』(全16話)
ディズニープラスにて配信中
原作:NAVERウェブトゥーン漫画『金のさじ』
企画:ホン・ソク(MBC)
脚本:キム・ウニ、ユン・ウンギョン
演出:ソン・ヒョヌク、イ・ハンジュン
出演者:ユク・ソンジェ、イ・ジョンウォン、チョン・チェヨン、ヨンウ
プロデューサー:キム・ボミ
(写真はMBC公式サイトより)

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