エディ・レッドメインが圧巻の演技を披露 『グッド・ナース』が描いた“おそるべき脅威”
このように、『ファンタスティック・ビースト』シリーズで、傷ついた魔法動物を介抱する姿も印象的なエディ・レッドメインが、内に秘めた闇を暗示させる役柄を演じているのが、本作の大きな見どころだ。とくに、チャーリーが母親のことを聞かれたときに、眉だけを動かして動揺を表してみせる演技は圧巻といえる。これは実話を基にした、作品独自の解釈であり、レッドメインの役柄への解釈がベースになっている部分だろう。
実際の事件の真相を映画で語りすぎることには、誤解を広めかねない倫理的な問題がある。だからこそ、俳優の表現力と説得力なしには、観客を納得へと導くことは難しい。ここに至って、本作の役柄は、並の俳優では演じることが厳しいということが十分に理解できるのだ。
出身国は異なるものの、ジェシカ・チャスティンもレッドメイン同様、繊細で、ある種文学的な雰囲気を纏っている俳優である。お互いに何かを感じ取って共感する面を持つことになる、本作の二人の役柄が、チャスティンとレッドメインによって演じられることは、作品にとって非常に幸運なことだったのではないだろうか。
だが、本作の描く恐るべき真相は、さらにその先にある。警察が捜査を進めていくと、数々の病院が、患者の変死事件に関与していたと見られる看護師を、告発することなく解雇していたという事実が明るみになる。その理由は、事件が明るみになることで、病院側が被害者に賠償することになるのはもちろん、名前に大きな傷がつくことが予想されるからだと考えられる。しかし、もしその看護師がおそろしい快楽殺人者であったとしたら、間違いなく他の病院でも同じことをするだろう。それを数々の病院が看過していたのである。
繰り返すが、この映画は実話を基にしている。つまり、アメリカに実在する数々の病院が、患者を殺害する行為を事実上黙認していたことになる。それが真実ならば、病院とは一体何なのだろうか。患者の生死や凶悪事件の抑止よりも、自分たちの保身や利益を優先する……このような態度では、医療ミスや、治療の過程で起きた医療従事者による犯罪も、日常的に揉み消しているのではと疑われても仕方ないのではないか。
もちろん、凶悪事件そのものは脅威であり、社会的な問題でもある。しかし、本作が真に指し示しているのは、市民の病院に対する根本的な信頼の失墜である。そして劇中で描かれる、企業化された病院が心や理性を失ったように、全てを損得勘定でとらえるようになった社会の狂気こそが、われわれを取り巻く巨大な脅威として、いま牙を剥いていることを、本作『グッド・ナース』は表現しているのだ。
■公開・配信情報
Netflix映画『グッド・ナース』
一部劇場にて公開中
Netflixにて独占配信中
監督:トビアス・リンホルム
脚本:クリスティ・ウィルソン=ケアンズ
原作:チャールズ・グレーバー著『The Good Nurse(原題)』
出演:ジェシカ・チャステイン、エディ・レッドメイン、ンナムディ・アサマア、キム・ディケンズ、マリク・ヨバ、アリックス・ウェスト・レフラー、ノア・エメリッヒ
公式サイト:https://www.goodnurse-jp.com