『ちむどんどん』川平家三代出演に感じたNHKの底力 最終幕にやってきた物語のピーク

 “朝ドラ”ことNHK連続テレビ小説『ちむどんどん』第23週「にんじんしりしりーは突然に」は、順調にエンディングに向かっていることを感じさせた。

 賢秀(竜星涼)と清恵(佐津川愛美)がお互いの過去を水に流してやり直すことになり、暢子(黒島結菜)は“ちむどんどん”を再開し今度は好評を得る。そして出産。子供は健彦と名付けられた。心が健やかでさえあればという願いがこもっている。

 物語は、子供のときの貧困描写以外、リアリティーを極力排しながら進行してきた印象ながら、比嘉家の置かれた環境が長年厳しかったであろうことは想像に難くない。比嘉一家のみならず、房子(原田美枝子)も然り。かつての恋人・三郎(片岡鶴太郎)といまの妻・多江(長野里美)と40年近くの時を経てお酒を酌み交わす。戦争に翻弄されて苦労してきた人々に、暢子の料理が東京で認められたことをきっかけにようやく光が差してくる。

 奇妙なことにこれまで暢子の暮らす東京には空がなかった。鶴見も銀座も、まったく太陽が見えなかった。ところが暢子は杉並に引っ越してからは太陽を拝むようになった。そこでわかるのは、太陽が見えないことがこの物語の登場人物たちの背負わされたものだったということである。

 終わりよければすべて良し。喉元過ぎれば熱さを忘れる。とはよく言ったもので、比嘉家が遭遇する嵐のような出来事は照射する順光線によって浄化されたように見える。

 光の現れのひとつとして、第114話、再開した「ちむどんどん」に一見さんの客がたくさん訪れる。最初に現れた客・藤田を演じている古舘寛治と黒島結菜はドラマ『アシガール』(NHK総合)で父娘役であったが、もう一作忘れてならない共演作がある。『ハルカの光』(NHK Eテレ)でふたりは名作照明店の店長と店員を演じた。『ハルカの光』はまさに“光”が人間にいかに重要かを語るドラマであった。

 戸をそっと開けて「ちむどんどん」に最初に注いだ光・藤田はちむどんどんの料理を気に入って客を連れてくる。

 その客を演じているのがナレーションを担当していたジョン・カビラである。それだけなら朝ドラあるある。『カムカムエヴリバディ』でもナレーションを担当していた城田優が終盤、登場しているから。だが、『ちむどんどん』ではジョン・カビラのみならず、彼の父・川平朝清と娘・羽夏が出演した。これがなにを意味するか。

 川平家は琉球雨王朝の末裔の一家で、戦前生まれの朝清、沖縄返還の年に東京に出てきたジョン・カビラ、戦争を知らない世代の羽夏と、リアル・カムカムエヴリバディ(家族三代の物語)であり、沖縄の象徴としても申し分ない。

 ドラマのテーマに関わりが深そうな親子三代がゲスト&カメオ出演する企画はいろんな意味で大成功であろう。これまた流れに光が差した。

 川平朝清とジョン・カビラは今年の5月に『アナウンサー百年百話』(NHKラジオ第2放送)で沖縄で初めてできたラジオ局の歴史を語っている。ドラマを作るという仕事は良き物語を作ることだけがすべてではない。あらゆることに目配りすることが肝要だ。

 沖縄にとって重要な人物である朝清さんをここで登場させられることに、NHKの底力を感じる。ドラマのなかで何かとコネが効くのはやっぱり大人同士のていねいな人間関係によってものごとが収まるという現実があるからであろう。

関連記事