『石子と羽男』自分の幸せが決める“勝ち”と“成功” “話し合えない”羽男と大庭の行方は?

 “負けるが勝ち”の勝負もある。

 金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』(TBS系)第8話を通じて、私たちはまた考えさせられる。何をもって“勝ち”とするのか、“成功”と呼べるのかは、自分の中の“幸せ”が決めるということを。

新規客が殺到する話題店か、常連に愛される隠れ家か

 今回、石子(有村架純)と羽男(中村倫也)に依頼してきたのは、知る人ぞ知る創作料理店「inside」を営む香山(梶原善)。グルメサイトに絶賛レビューが掲載され、新規のお客さんが続々とやってきてしまって困っているというのだ。

 一般的な感覚で見れば、それはとても嬉しいリアクション。売上も上がり、話題の店となって万々歳……となりそうなところだが、「inside」は“隠れ家”を売りにした小さなお店。お店の持ち味である常連客とのふれあいが難しくなってしまい、営業妨害ともいえる状況なのだそう。香山はグルメサイトを運営する企業にレビューの削除依頼をするも拒否されてしまったために、声を上げたというのだ。

 石子と羽男が調べたところ、そのレビューを書いたペンネーム“おかわり名人”は元アルバイトの沙月(橘美緒)と香山の息子・洋(堀井新太)の妻である蘭(小池里奈)の共同名義であることが判明。そこから隠れ家にこだわりたい香山と、今のやり方では先細りだと反対する洋と、親子の確執が紐解かれていく。

 それは「人々の暮らしを守る傘になりたい」と採算度外視で依頼を引き受けてしまう父・綿郎(さだまさし)と石子の関係そのままのように見えた。そして、父のやり方に振り回されて、母親が苦労をしてきたというところも共通している。

 石子は綿郎に対して敬語で話しかけ、どこかビジネスライクに父と接することで、母に苦しい思いをさせてきたことを責めたい感情を押し込めていたのだろう。「お父さんが傘を差し出した後ろで、お母さんはずぶ濡れだったんですよ」と思わず感情的な言葉をぶつける。

 喧嘩別れしていた香山親子が顔を合わせたように、石子と綿郎の間にも羽男がいることで本音をさらけだせる空気が作り上げられたように思う。石子が羽男に「多いな」「すごいかけたな」とタメ口ではないツッコミを入れるようになったのも、羽男のボケを泳がせてみたのも、固く閉ざされていた心がほぐれていった証だろう。

 おそらく石子も洋も心ではわかってはいるのだ、父にとっての幸せは儲かる商売ではなく、本当に幸せを感じてもらうことであること。そして母もそんな価値観を持つ父だから支えようと思ったのだと。それに父に黙って仕入先の開拓をしたり、行き場のない少女を救おうと商売ではない部分にアツくなったりと、それぞれが父譲りのお人よしな部分があることも。だからこそ余計にもどかしいのだ。近くて似ている人ほど、何を直せばいいのかが見えてくるものだから。

裁判で勝つか、大衆の心を動かすか

 レビューに関しては、香山親子と沙月を交えた話し合いを経て削除申請することになったのだが、お店の情報そのものはグルメサイトから消すことはできないというのが運営会社の主張。また、その弁護を引き受けているのが羽男にとって絶対に負けたくない相手・丹澤(宮野真守)なものだから、よりいっそう鼻息が荒くなる。

 とはいえ、このまま裁判を進めていけば丹澤に軍配が上がるのは明らか。そこで、石子は世論を味方につけようと傍聴席に多くの記者を呼び、この事件について注目が集まるように仕向ける。そして、羽男に「知る権利があるように、知られない権利もあるのでは」という名演説をさせ、法ではどうにもならない部分を、人々の心を動かすことで大きくひっくり返してやろうという作戦に出るのだった。

 結果、石子の思惑通りにこの事件は大きな反響を呼び、グルメサイトの運営会社には苦情が殺到。「inside」に関するすべての情報を削除せざるを得ない空気を作り出したのだ。レビューがきっかけで起こった事件を、ネット記事やSNSのつぶやきで解決するとは、なんとも風刺の効いた展開ではないか。

 また、弁護士としての実績は、裁判で勝つことのほうが重要視されるのかもしれない。しかし、依頼人である香山の願い通りの結果に「っしゃー!」とガッツポーズを決める羽男は、すっかり綿郎&石子親子と同じイズムで生きているのが見て取れる。おそらくそれは丹澤と同じ大手法律事務所で働いていたころには味わえなかった勝利の喜びではないだろうか。

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