入江悠「地上波だとできないような攻め方も」 松田龍平と再タッグ『鵜頭川村事件』を語る
嵐の後の作り込みへのこだわり
――本作は映像化にあたって脚色されていますが、脚本は『ギャングース』でも組まれている和田清人さんです。
入江:和田さんは僕が推薦させてもらいました。ある種の群像劇であり、日本の縮図ともいえる話なので、その辺をまとめる力が必要でした。原作では物語が近過去の設定ですが、今の日本の映像界で過去の話を撮るのはものすごく大変なんです。衣装にしろ美術にしろ。車1台探すのですら大変です。原作の櫛木さんにも脚色にはご理解をいただき、時代は現代の話にさせていただきました。脚色していく際には『ツイン・ピークス』の名前なんかも上がりましたね。「あのくらいぶっ飛んでもいいんじゃないか」と。
――村は12年に一度のエイキチ祭りが開かれるところでした。エイキチのわらべ歌や、祭壇にあげられる大きなエイキチ人形の造形は、監督からかなりリクエストがあったのでしょうか。
入江:そうですね。あの辺は結構リクエストしました。わらべ歌って、実はかなり怖いものが多いですよね。子どもの頃は何気なく歌っているけれど、含みがあって。そういうのが面白いと思って作っていきました。祭りに関しても日本各地に昔からいろんな奇祭があるので、そうした雰囲気を取り込めたらと思いました。エイキチ人形はお腹に穴が開いているのですが、美術監督が「あそこに人の欲望みたいなものをどんどん吸い込んでしまう」といったふうにデザインしてくれたんです。あの穴に村人たちが小さな紙人形を入れていくんですけど、エイキチ自体は空虚なお腹を持っているだけで、そこに人がいろんなものを入れていく。面白いと思いました。
――長野で2カ月間にわたってロケされたとか。冬の寒い中、大変だったと聞いていますが、嵐の後を再現した作り込みが素晴らしいです。
入江:集中豪雨があって地滑りがあってといった世界観を作るのは大変でした。本当はずっと雨が降っている感じにしたかったんですけど、それだと撮影にならないので(苦笑)。大雨が降って、復旧ができていない中で人々が右往左往する話なので、最終話まで含めて、嵐の後の作り込みはずっとやり続けていました。美術部だけでなく、撮影部、照明部、録音部とスタッフが一丸となって、みんなで木材やがれきを運んで水を撒いて、全員野球でした。チームワークで乗り切りました。
――フィルムのような質感の映像も印象的です。
入江:WOWOWのドラマって、昔から映像がシャープですよね。暗闇があって、コントラストがあって。僕もそういうものを観て育ったので、伝統に則った部分もありますし、地上波だとできないような攻め方もできました。
――最近はコンプライアンスなどの問題もありますが、まさに地上波では近年見たことのない攻め方の作品です。
入江:やっぱりやりがいはありますね。前にWOWOWでやらせていただいた『ふたがしら』は、WOWOW初の連続時代劇だったのですが、結構殺陣もあって、血もドバドバ出していたんです。でも「どんどんやってください」とプロデューサーにお墨付きをいただきまして。そういうことが挑戦できるのは嬉しいですし、やっぱり目の肥えた視聴者が観てくれているからだと思います。
――普遍性も持った作品です。設定としてはデジタルとは遠いところにありますし、舞台は遮断された狭い村ですが、みなが同じ方向を向いて暴徒化していくさまなど、現代のSNSなどの怖さにも通じます。
入江:むしろ今の方がその感じは強くなっているかもしれませんね。インターネットの黎明期には、もうちょっと明るい未来をみんな想像していたと思うんです。でも今はより情報でコントロールされやすくなっていて、噂が広がると、みんなが一斉にそっちに行きたがる。根底にあるものは共通している気がします。今回の作品では伊武雅刀さんと工藤阿須加さんが担っているのですが、相容れないイデオロギーがあって、いつの間にか二者択一みたいになってしまう。そうした感覚も近い感じがありますね。
幾度か登場する“鏡”に注目
――キャストについてもう少しお尋ねします。1人2役を演じた蓮佛美沙子さんはいかがでしたか?
入江:このドロドロした世界のなかで、すごく透明感がありました。仁美は村から出ていく設定の役でもありますが、外側に繋がっているトンネルのような印象ですね。光を感じるというか。そして蓮佛さんは芝居に関しては全然ブレません。どんなに状況が過酷でも、全く揺るがない。とても芯の強い方だと思いました。
――ベテランから若手まで豪華なキャスト陣ですが、若手の山田杏奈さんもキーパーソンです。
入江:彼女は本当に素晴らしいと思いました。村人の中に混じっているシーンが結構あるのですが、山田さんは、脚本に特に書かれていなくても、こちらが指示していなくても、「ここには自分はいるはず」とちゃんと想像して、居てくれるんです。映像として映ってないくらいの遠くのほうであっても。蓮佛さんと同様にブレない方ですし、すごく読解力があるし、撮影をよく分かっていると思いました。すごい女優さんだと思います。
――最後に、本作を楽しみにしている読者に、プラスアルファのメッセージをお願いします。
入江:この前に作った『聖地X』という映画でもやったのですが、鏡を使うのが面白いなと最近思っていて、今回も鏡に映る岩森を結構撮りました。そこから彼の心の中にあるものが伝わったらいいなと。なので鏡が出てくるなと思ったら、そこの変化にも意識してもらえると、最終話で「なるほど」と思ってもらえるかなと思います。
■放送情報
『連続ドラマW 鵜頭川村事件』(全6話)
WOWOWプライム・WOWOW4Kにて、毎週日曜22:00〜放送・配信中
※第1話無料放送
WOWOWオンデマンドにて、各月の初回放送終了後、同月放送分を一挙配信
※無料トライアル実施中
出演:松田龍平、蓮佛美沙子、工藤阿須加、山田杏奈、板橋駿谷、冨手麻妙、吉岡睦雄、和田光沙、宇佐卓真、眞島秀和、綾田俊樹、荒川良々、伊武雅刀ほか
原作:櫛木理宇(『鵜頭川村事件』文春文庫刊)
脚本:和田清人
監督:入江悠
音楽:池永正二(あらかじめ決められた恋人たちへ)
©︎WOWOW
公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/uzukawamura/