『石子と羽男』はリーガルドラマを更新する 法律家の脱ヒーロー化と事件主体への転換

事件そのものが主役

 『石子と羽男』で重視されているのは「事件」だ。事件というと一般的には争いごとや問題を意味するが、法的な観点からは裁判所に訴えが提起された紛争を指す。そこには対立する当事者がいる。『石子と羽男』では、事件の裏にある事情が丁寧に描かれる。第1話で赤楚衛二演じる大庭がカフェの電源を無断使用したのは、同僚に対するパワハラの証拠を集めるためだったし、第2話で小学生の孝多(小林優仁)がスマホゲームに課金したのは、塾を辞めて母親に楽をさせたいと思ったからだが、背後には黒幕がいた。

 事件の当事者は原告と被告で、弁護士は当事者の意向を実現する代理人にすぎない。その意味で、法廷を舞台にしたドラマの主体は当事者である。しかし、過去の法廷ものでは弁護士や検察官の活躍にスポットライトが当てられてきた。これに対して『石子と羽男』では、法廷に出てこない当事者間の事情により注目しており、事件そのものが主役といえる。もちろん法廷でのシーンもあるが、石羽コンビの三段論法を完成させる決め台詞的な位置付けであり、ドラマのエッセンスが事件の細部に宿る点は揺るがない。

 リーガルドラマを脱ヒーロー化し、事件主体の構造に転換する本作が不完全な2人を主人公にしたことは象徴的だ。キャラクターに依存する作風からの脱却であり、司法へのアクセスが容易になり、頻繁に法改正が行われる昨今の趨勢にも合致する。リーガルドラマの描かれ方を変える可能性を持った『石子と羽男』の行方に注目したい。

■放送情報
金曜ドラマ『石子と羽男ーそんなコトで訴えます?ー』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:有村架純、中村倫也、赤楚衛二、おいでやす小田、さだまさし
脚本:西田征史
演出:塚原あゆ子、山本剛義
プロデュース:新井順子
編成:中西真央、松岡洋太
音楽:得田真裕
主題歌:「人間ごっこ」RADWIMPS(Muzinto Records / EMI)
製作:TBSスパークル、TBS
©︎TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/ishikotohaneo_tbs/
公式Twitter:@ishihane_tbs
公式Instagram:@ishiko.to.haneo_tbs

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