映画祭「ひろしまアニメーションシーズン2022」が紡いだアニメの未来 『犬王』生演奏も

映像と音楽の関係、ジェンダーやセクシュアリティへの視点

 田中との対談で、山村監督がアニメーションに動きを取り込む方法を話していたことに関連する内容だったのが、「音楽」のテーマに沿って、早稲田大学の細馬宏通教授が行った講演「ビジュアルミュージック」だ。動きからどうして音楽が感じられるのかを話し、アニメーションの動きと音楽の関わりが強い作品を上映した。

 作家では、ノーマン・マクラレン、ライアン・ラーキン、ズビグニュー・リプチンスキー、ブラザーズ・クエイらが登場。音楽に乗って変化する映像から快楽が感じられる理由などが説明された。最近、ミュージックビデオをアニメーションで作る動きが活発だが、それが音楽にマッチしたものと感じられる理由や、映像を手掛けたクリエイターの作家性を見いだす上で、何がポイントかを示唆してくれる講演だった。

 「社会」のテーマでは、ジェンダーやセクシュアリティに関連した内容を持つ作品を集めたプログラム「ジェンダー・アイデンティティとセクシュアリティ」「女性たちのアニマ」が開催された。「女性たちのアニマ」で上映された韓国のムン・スジン監督による『ペルソナ』は、平凡な容姿と肉体を持った女性が美貌とグラマラスな肉体になれるボディスーツを着て交流しているうちに、自分が失われていく様を描いて、過剰なルッキズムに警鐘を鳴らしていた。

 ひろしまアニメーションシーズン2022での特徴的な試みとして、上映前に性表現や暴力表現がある可能性を告知することで、知らずに観てしまって衝撃を受けるような事態が極力避けられていた。映画界でたびたび問題として上がるハラスメントを防止するガイドラインも設けて、強要などが起こらないように配慮もされていた。前例を持たない第1回目ならではの試みが成功したかは、閉幕後に改めて検証され、次回以降に反映されることだろう。

 広島市におけるアニメーションの火を絶やさず、広い範囲に関心を持ってもらえるようにし、多様性のあるアニメーション作品を評価できるようにしたということで、ひろしまアニメーションシーズン2022はひとまず責任を果たした。次は2年後の予定らしいが、確実に開催されることを大前提に、最先端のアニメーションに触れられるイベントであり、且つ広い範囲が関心を持つイベントでもあるという“両得”を実現していくことが、何よりも求められている。

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