映画祭「ひろしまアニメーションシーズン2022」が紡いだアニメの未来 『犬王』生演奏も

環太平洋・アジア地域のクリエイターや功労者を表彰するゴールデンカープスター

 ひろしまアニメーションシーズン2022が立ち上げに際して意識したのが、環太平洋やアジアといった地域への注目だ。コンペティションを行う一方で、「ゴールデン・カープスター」という部門を立ち上げ、映画プロデューサーのクリスティン・ベルソン、日本のアニメーション制作会社で湯浅政明監督の『犬王』などを手掛けたサイエンスSARUなどを表彰した。

 アニメーション映画祭は、芸術性やメッセージ性を持った個人制作のアニメーション作品を紹介するなどの意義はあるが、元から関心が高い人にしか興味を持ってもらえないという課題があった。ひろしまアニメーションシーズン2022では、クリスティン・ベルソンが製作総指揮をとった『ヒックとドラゴン』を無料上映して喜ばれた。作曲家の大友良英と薩摩琵琶演奏家の後藤幸浩による生演奏が付いた『犬王』の"狂騒"応援上映には、東京都内の劇場よりも大勢のファンが集まっていたようで、1回目にして全国に存在をアピールできた。

「水」「音楽」などテーマに沿って特集上映

 テーマに沿った特集上映では、三角州の上に発展した広島が「水の都」と呼ばれていることもあって「水」というテーマが設定された。4大アニメーションフェスティバルをすべて制した世界的なアニメーション作家で、ひろしまアニメーションシーズンのアーティスティック・ディレクターを務める山村浩二監督の最新作『幾多の北』が上映された。

 東日本大震災の後に誰もが抱くようになった日々の不安のようなものをとらえ、ビジュアルとして表現したものをつなげていった、山村監督には珍しい長編作品。上映前に登壇した山村監督は、「プライベートな考えで作りたいように作った」と個人的な思いを形にした作品であることを訴えた。映像に重なって次々と登場するワードに「自分自身とつながるワードがあれば嬉しい」と話して、共感を持ってもらうことに期待していた。

 山村監督は、ダンサーの田中泯を追ったドキュメンタリー映画『名付けようのない踊り』の中で、田中の幼少時代をアニメーションで描いている。ひろしまアニメーションシーズン2022には田中本人が来場して山村監督とトークを繰り広げた。田中は、同じ顔で違う役を演じても支持される人気俳優にとって、体で演じる演技は意味があるのかといった問いかけから、「アニメーションにも体のキャラクターがいなければおかしい」と発言した。

(左から)山村浩二、ダンサーの田中泯

 ていねいな顔の作画が評判になる一方で、キャラクターを特徴的に見せる動きが評判になることが少ないアニメーションの状況を、外部から鋭く抉る言葉とも言えそう。田中はまた、ライブでアーティストが振る手の動きに全員が合わせることを、「素晴らしい歌を聞いているのに、どうして一緒に動くのか。あれは下品な忖度だ」と鋭く斬った。支持を受けて型どおりに動くことを窮屈に感じている人も少なくない。感性に自由であることの大切さを改めて教えられる、印象的なトークイベントだった。

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