『鎌倉殿の13人』堀田真由、梶原善、金子大地、高岸宏行 “涙”が流れ続けた第32回

 『鎌倉殿の13人』(NHK総合)第32回「災いの種」。源頼家(金子大地)は奇跡的に息を吹き返した。そんな中、政子(小池栄子)のもとに義時(小栗旬)、泰時(坂口健太郎)らが集まり、新たな体制について話し合う。

 第32回では、比企を滅ぼした北条に憤りを露わにする頼家や、離縁を申し出る比奈(堀田真由)の複雑な心中、善児(梶原善)がふいに見せた人間らしい表情などが印象に残った。

 比奈は比企の血を引く身でありながら比企を滅ぼす手助けをしたことで傷心し、離縁を決意した。けれど比奈は、比企の仇であれど義時を想い続ける。起請文の誓いを破れば義時が地獄に落ちるから、と自ら離縁を申し出、その場を立ち去る義時を「行ってらっしゃいませ!」と笑顔で見送った。

 比奈は最後まで、明るく、自分の思いをまっすぐ伝える女性であり続けたのだ。とはいえ、比奈を演じている堀田が最後に見せた表情は切ない。堀田は別れの悲しさや寂しさを押し殺すように口をつぐんだ。義時の背を見送る潤んだ目は悲しげに映る。しかしその目は最後まで凛としていた。北条と比企の間で苦悩し、悲しい決断を迫られた比奈だが、目を潤ませながらもまっすぐ前を見つめるその表情は、比奈の芯の強さを表していた。

 そして、今回最も意外な表情を見せたのが善児だ。泰時が一幡(相澤壮太)を生かし、善児とトウ(山本千尋)がその身を預かっている。善児は、一幡がトウと遊ぶ姿を横目で見ながら何かを作っていた。そのときにふと、笑みがこぼれたように見える瞬間があった。相変わらず簡単には感情の読めない表情ではあるものの、善児から不意に優しさのようなものが感じられたのだ。その後、義時が彼らのもとを訪ねたとき、善児が一幡のためにブランコを作っていたことが明かされる。一幡を殺せと命じる義時に善児は「できねえ」と言った。

「わしを好いてくれている」

 命じられるままに淡々と人を殺めてきた善児は、好意を受け、心が揺れ動く。義時に従い、小刀を手に取った善児だが一幡の笑顔を前に足が止まる。トウに連れられ、その場を離れる一幡は「善児、何で泣いてたの」と無邪気に問いかけた。善児が人を殺めるとき、その近くには水や川の存在がある。トウが水遊びに誘ったことや、善児が一幡のために作ったブランコを自らの手で切り落としていたことから、その後一幡が殺されたことは明白だ。命を奪う相手を前に涙を見せてしまった善児が、必死に感情を押し殺し、任務を果たす姿は心苦しかった。

 病気で伏せっている間にせつ(山谷花純)と一幡を奪われた頼家の抑えようのない怒りと悲しみも心を掴む。政子と言葉を交わす中で、北条が比企を滅ぼしたことを悟った頼家は「北条をわしは絶対に許さん! お前もだ!」と強い言葉で政子を拒絶した。その後、彼の心に押し寄せたのは強い喪失感だ。泣きながら「出ていってくれ……お願いだから」と懇願し、力なくそこへ座り込む姿は見ていてつらいものがあった。伊豆に追いやられることになった頼家は、力ずくで従わせようとする御家人たちから必死に抗う。「北条の言いなりにはならん!」「分からないのか、三浦! 比企の次は三浦だぞ! 和田だぞ!」と頼家は懸命に声を張り上げて抵抗するが、病で弱った体がふらつく。

 倒れ込んだ頼家は大声を上げて涙を流した。感情のままに声をあげる頼家は、誰よりも純粋だ。けれど今この鎌倉に、純粋でまっすぐな青年の居場所はない。涙しながら憤り、拳を握る頼家だが、その拳には力がない。泣きじゃくる頼家の口から出た言葉もまた、見ている者の心を締め付ける。

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