ムロツヨシが“喜劇俳優”のイメージを塗り替える 『雨に消えた向日葵』で見せる真の実力

 そうしたなかで本作が掲げるテーマは大きく2つある。ひとつ目は、娘の安否に繋がる情報を藁にもすがる思いで求める家族へ向けられる誹謗中傷や嘲笑、またその弱みに漬け込んで行われる詐欺行為といった二次的な加害行為の数々である。これはいわずもがな、実際の現代社会においてもまるで社会病理のように蔓延っている問題だ。物語自体は埼玉県の一部地域というごく限られたエリアの中で展開していくのだが、その裏側には無限に拡がる善意も悪意も入り混じったネットワークが存在していることは、現代劇である以上、視聴者にとっても想像に易い。そこから言葉や行動、あらゆる情報が登場人物たちの存在するエリアに飛び火することで、物語はかき回されていく。

 かつての同型のミステリーであれば、警察や被害者家族という“見える”範囲にいる者たちと、犯人という“見えない”者との攻防が物語を構築していた。ここでは常に“見えない”ものをいかにして“見える”ようにするかという奔走があるわけだが、いまではそこに、また別の巨大な“見えない”者たちが立ちはだかる。その存在の正体を計り知ることは決して不可能ではないが、それは途方もない戦いになりかねないだけに、よほどのことがない限り相手にされることはない。しかしそれは確かに、登場人物たちを疲弊させ追い詰めていくのである。

 そしてもうひとつは、「犯罪被害者の再生」という極めて重要なトピックである。本作においては、奈良の妹の真由子の物語がその多くを担っている。学生時代に夜道で犯罪の被害者となり、苦しみを抱えながら成長した彼女は、自立の道を模索するようになる。その事件がきっかけとなり警察官を志した奈良は、失踪事件の少女に真由子を重ね、そして彼女を守りきれなかったことを悔やむ家族の姿に自身を重ねていく。犯罪加害者やその家族に向けられる歪んだ正義感による私刑めいた誹謗中傷ももちろん許容されるものではないが、犯罪被害者に対しても同様の誹謗中傷が寄せられるという理解不能なことが現実世界でも頻繁に起きている。そしてそれは、傷を背負った犯罪被害者やその家族の再生の妨げとなっているのだ。

 全5話で展開する本作のクライマックスには、被害者家族に向けられた毒牙がこれから先も向けられ続け、終わりが見えないことを示唆するやりとりが見受けられる。それは考え方によっては救いのないことかもしれない。しかしその、ムロ演じる奈良と佐藤隆太演じる葵の父・征則のやりとりからは、どんな悪をもってしても壊せないものがあることを教えてくれる。そして犯罪は、犯人が検挙されれば終わるものでもなければ、然るべき刑罰が全うされたところで終わるものでもない。硬派な警察ドラマであり、子どもの失踪をめぐる家族のドラマでもある本作は、そうしたいくつもの当たり前のことを、さも当たり前のように提示するのである。

参考

※https://www.npa.go.jp/toukei/seianki/R02/r02keihouhantoukeisiryou.pdf

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■放送情報
『連続ドラマW 雨に消えた向日葵』(全5話)
WOWOWプライム、WOWOW 4K、WOWOWオンデマンドにて放送・配信中
※第1話無料放送
出演:ムロツヨシ、平岩紙、今野浩喜、遊井亮子、堀部圭亮、中越典子、佐藤隆太/阪田マサノブ、加治将樹、坂田聡、小松利昌、米倉れいあ、大島美優、沢井美優、梅沢昌代
原作:吉川英梨『雨に消えた向日葵』(幻冬舎文庫)
脚本:関えり香
監督:土方政人、岩田和行
プロデューサー:徳田雄久、高丸雅隆
製作:WOWOW、共同テレビ

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