『空白を満たしなさい』全5話はこれからの人生に沁み渡る “正しさ”を重視する現代の中で
『空白を満たしなさい』の最終話が7月30日に放送された。「人は、なぜ自殺をするのか?」という根源的な問いを「分人主義的なアプローチ」で向き合った平野啓一郎の重厚な同名原作小説(講談社文庫)が、映画『死刑にいたる病』、『僕の姉ちゃん』(テレビ東京)など、硬軟問わず優れた作品を多く手掛ける高田亮の脚本によって、見事に視聴者の心と、これからの人生に、深く沁み渡った全5話だった。
彼らの作りあげた物語と、柴田岳志、黛りんたろうによる演出。そして、柄本佑、鈴木杏、阿部サダヲという優れた演技巧者によって形づくられた本作は、全5話という限られた時間を使い、これでもかという濃密さで、土屋徹生(柄本佑)という一人の人間の心と、人生の、「空白」を満たしていった。
最終話である第5話の内容の濃さには殊更驚かされた。徹生が、千佳(鈴木杏)が抱えていた母親・薫(木野花)との問題と向き合うとともに、ぎこちなかった璃久(斉藤拓弥)との父子の関係性の深化を経て、愛がより深まっていくという、家族の物語。それと同時進行で、文字通り「消滅」していく復生者たちと、徹生にもいつ「それ」が起こるか分からないという状況がスリリングに描かれるという、若干のホラー要素が組み合わさって、泣かされたり、ゾクッとしたり、息を呑んだり、視聴者の感情の揺れはジェットコースターさながら、怒涛の展開だった。
そして、この怒涛の展開全てに確かなリアリティを持たせたのは、柄本佑の演技力に他ならない。また、俳優たちの力量への絶対的な信頼が見て取れる、抑制の効いた演出・脚本も功を奏したと言える。
例えば、この先そう長くは一緒にいられないだろう息子のこれからを案じ、本気で叱る時の父としての徹生の眼差し。母・恵子(風吹ジュン)と叶えることができないだろう未来の話をする時の、俯きながら頷く、息子としての徹生の表情。鈴木杏演じる千佳との涙と抱擁の場面の反復が示す、夫婦の成長。何より素晴らしかったのは、徹生が千佳の母と対峙する場面だ。千佳の母が、娘をどこまでも否定する言葉を並べ立てる時、黙ってそれを聞いていた徹生は、一瞬の間をおいて話しだした。このひと時の「空白」を、視聴者は埋めようと、想像せずにはいられない。あまりの理不尽な言葉に対して、激高して義母を罵るだろうか、怒りのあまり、静かに縁を切るだろうかと。彼はそのどれでもない反応を見せる。涙を拭った後、朗らかに笑い、義母が否定した分だけ、千佳の全てを肯定し、千佳にかけられた「心が汚い子供」の呪いを「千佳は本当にいい人間」という言葉で解いたのだった。さらに、千佳を生み育てた両親に心から感謝することで、彼女が抱いてきた、幼少期の彼女の魂は浄化され、真っ白なTシャツに身を包み、微笑んでいた。