『ユーレイデコ』の設定を『PSYCHO-PASS』などから紐解く 評価経済社会の功罪とは

 『ユーレイデコ』の世界も「らぶ」を獲得するために、誰もが他人の欲望を刺激するような行動ばかりとるようになって、荒れ果ててしまわないかと心配になるが、そこはネットを監視しているカスタマーセンターの人たちがいて、悪意のあるコンテンツを削除し盛り上がらないようにしている。

 そうやって隠してしまうことが世界の危機につながるのではないか、といった不安も浮かんでくる。本作で街に出たベリィが見かけたハックは、ある事情からカスタマーセンターに存在を把握されていない上に、姿を見えなくして街中を徘徊し、住人たちにいたずらを仕掛けて遊んでいた。島では、「らぶ」が突然ゼロになってしまう怪現象が発生していて、ベリィはハックが犯人の「怪人0」ではないかと思って追い始める。

 そんなベリィとハックを謎の現象が襲う。それは、『地球外少年少女』の磯光雄監督が2007年に送り出した『電脳コイル』に登場して、デコならぬ電脳メガネ越しに見える拡張現実の世界を脅かすバグを駆除していたサッチーのよう。もっとも、サッチーが空間管理室の配下にあるのに対して、ベリィとハックが遭遇した現象は原因が不明で、市民への危険性も少なくなかった。

 それなのに、カスタマーセンターは危険性を喧伝するどころか記録から削除して、なかったことにしようとする。何かが起こっているにも関わらず、気付いているのはベリィとハック、そしてハックの知り合いらしいフィンと仲間の人たち。ここから世界がどのような仕組みで管理されていて、「らぶ」を集めることがどのような意味を持っていて、どのような世界へと向かおうとしているのかが、描かれていくことになるのだろう。

 ある種の賞賛が唯一の評価基準で、それによって毎日の暮らしが楽しくなる程度だったら、「いいね」の数や動画の再生回数がお金につながる現実の世界でも、すでに実現していると言える。そこに、『電脳コイル』に描かれた拡張現実のテクノロジーが加わった世界が、『ユーレイデコ』の舞台のように今は見える。善良な振る舞いでなければ削除されてしまうこの世界なら、悪名は無名に勝るとばかりに暴露を行い、知名度を得て選挙で当選する人は生まれなかっただろう。

 ただ、削除と言っても存在自体が消されてしまうわけではない。これが『PSYCHO-PASS サイコパス』のように、シビュラシステムによって言動がすべて把握された世界だったら、悪意はすぐに察知され、社会から抹殺されただろう。犯罪を起こしそうだというだけで社会的な地位を剥奪されるほど。善意に溢れたユートピアとも言えそうだが、それでも残る格差だったり、抑えきれない衝動だったりが事件を招いて、主人公たち厚生省公安局刑事課のメンバーたちを現場へと走らせる。

 『PSYCHO-PASS サイコパス』でユニークなのは、すべてを決めるシビュラシステムがどのようなものかという部分。善意も悪意も含めた感情ではなく、かといって機械的な計算でもない高度で有機的な判断の集まりがそこにあるという設定に、人を裁く難しさを感じる。『ユーレイデコ』のシステムにも、そうした判断基準のコアめいたものがあるのか。それはどのような思惑を持っているのか。謎が明かされていくこれからの展開が楽しみだ。

■放送情報
『ユーレイデコ』
TOKYO MXにて、毎週日曜23:00より放送
MBSにて、毎週火曜27:30より放送
BS日テレにて、毎週月曜24:30より放送
原案:湯浅政明、佐藤大
監督:霜山朋久
出演:川勝未来、永瀬アンナ、入野自由、佐藤せつじ、定岡小百合、釘宮理恵
シリーズ構成:佐藤大
脚本:佐藤大、うえのきみこ
音楽:ミト(クラムボン)KOTARO SAITO Yebisu303
キャラクターデザイン:本間晃
美術監督:赤井文尚
色彩設計:辻田邦夫
撮影監督:関谷能弘、伊藤ひかり
編集:齋藤朱里
音響監督:久保宗一郎
音響効果:西村睦弘
アニメーション制作:サイエンスSARU
(c)ユーレイデコ
公式サイト:yureideco.com
公式Twitter:@YUREIDECO

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