『ユーレイデコ』の設定を『PSYCHO-PASS』などから紐解く 評価経済社会の功罪とは

 ネットの投稿に「いいね」が付くたびに預金残高が増えていく状況が、今は現実になっていて、投稿動画で何億円も稼ぐユーチューバーが大勢現れている。もう少ししたらネットでもらえる「いいね」の数が、その人の価値を左右するようになるかもしれない。湯浅政明×佐藤大原案で7月から始まったアニメ『ユーレイデコ』に描かれているのが、まさにそんな世界だ。

『ユーレイデコ』公式サイトより

 本作の舞台は、島全体が電脳化されているトムソーヤ島。そこに暮らしている住人たちは、ネット上でのあらゆる行動が、他人から評価付けされている。高い評価を受ければ「いいね」ならぬ「らぶ」がもらえて、生活を向上させられる。

 ユニークなのが、「らぶ」を集める目的が住む場所を豪華にするとか、美味しいものを食べるといった物質的な豊かさを求めることだけではないところ。デコと呼ばれる電脳世界とつながるデバイスを介して、見た目に映る世界を飾るアバターやスキンといったものを「らぶ」を使って豪華にしたり、より可愛いものへと変えたりして楽しんでいる。

 ベリィという主人公の少女も街に出た時、手元の端末を操作してデコ越しに見える世界をおしゃれに飾ろうとしたが、「らぶ」が足りず標準的なものしか選べなかった。自分がどう見えるかに「らぶ」を注ぎ込むのは、お金をかけて高級ブランドを着るようなものだから行動として理解できる。しかし、街の見え方にも「らぶ」をかけたいと願うのはなぜなのか?

 想像するなら、生きていく上で最低限の環境が福祉なりベーシックインカムとして保証された世界で、もう一段上の幸福を求めたがる性質が人間にはあるからなのだろう。その性質を刺激して「らぶ」の獲得を競わせることで、生きていく気力を保ち続けさせているのかもしれない。

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 こうした電脳世界ならではの“格差”は、2011年に放送されたアニメ『フラクタル』にも描かれている。フラクタルシステムによってネットワーク化された世界では、「ドネ」という仮想通貨がベーシックインカムとして支給され、住人たちの最低限の暮らしを支えている。誰もがドッペルと呼ばれる一種の分身を使って、世界の各地にいる人たちとコミュニケーションをとっているが、『ユーレイデコ』のように見た目を競うような雰囲気はない。

 その理由は、フラクタルシステムの誕生から1000年が経ってシステムにほころびが出たことで、仮想通貨をかき集めて他人の上に立とうとする行為が難しくなったからだ。平穏と言えば平穏だが活力は失われている。これが「EPISODE 07 虚飾の街」に登場した完全都市・ザナドゥのように、フラクタルシステムがまだ生きている都市では、芸術家がネット上で制作した作品を売り買いし、「モネ」と呼ばれる通貨を稼いでドッペルを飾り、街全体をきらびやかなものにして楽しんでいる。

 最近はやりのNFTによるアート作品の所有権売買を先取りしたような描写とも言えて、山本寛監督とストーリー原案の東浩紀、シリーズ構成の岡田麿里によるユニットの先見性がうかがえる。絵コンテと演出は監督作品『ヴァンパイア・イン・ザ・ガーデン』がNetflixで配信中の牧原亮太郎で、欲望がもたらす心の醜さを、ちょっとしたアクションも交えて見せてくれる。今も必見のエピソードだ。

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