『ミニオンズ フィーバー』が追求する音楽の魅力 ブラックカルチャーのきらめきを楽しむ
イルミネーションの代表作である、『怪盗グルー』シリーズの人気キャラクター、“ミニオン”。グルーの手下として働く、小さくてバナナのように鮮やかな黄色の集団は、多くの観客の心をつかみ、2015年には彼らを主人公としたスピンオフ、『ミニオンズ』が公開され、日本でも50億の大ヒットを記録した。本作『ミニオンズ フィーバー』は、その続編である。
もともと『怪盗グルー』シリーズは、ファレル・ウィリアムスが提供する楽曲や、ソウルフルな曲調の多い過去のヒットソングがつまったサウンドトラック、「シンプリー・レッド」のギタリストだった映画音楽家ヘイター・ペレイラの劇伴など、音楽的なセンスの良さも話題になってきた。本作もまた、そこに大きな魅力がある一作となった。
本作の目玉となる楽曲は、売れっ子音楽プロデューサーのジャック・アントノフ、今年78歳で、レジェンド級ポップ・ソウルシンガーのダイアナ・ロス、オーストラリアのサイケデリック・ロックバンドのテーム・インパラが共作した「ターン・アップ・ザ・サンシャイン」。
さらには、H.E.R.、サンダーキャット、フィービー・ブリジャーズ、キャロライン・ポラチェク、セイント・ヴィンセント、ワイズ・ブラッドなど、現在注目の実力あるアーティストたちが、それぞれ1970年代にリリースされたソウル、ディスコナンバーなどに現代的なテイストを加えて蘇らせている。
過去の名曲や曲調をリスペクトし、新しい才能がその魅力を受け継いで意匠を加えていく流れは、まさに“温故知新”の精神を地で行っているといえるだろう。しかし、本作がそこまで音楽の魅力を追求し、傾倒しているのはなぜなのだろうか。
これは、シリーズはもちろん、前作『ミニオンズ』からも強く継承している姿勢でもある。不思議な種族“ミニオンズ”の起源と、彼らと怪盗グルーとの出会いを暗示した前作は、60年代のロンドンを舞台の一部とした一作だった。
当時のロンドンでは、労働者階級の若者たちを中心とした、ポップカルチャーの爆発が起こった。ロックやミニスカートに象徴される、音楽、ファッションにおける新たな価値観の発信、ヘアデザイン、アートなどの分野でも劇的な変化を迎えた。そんなロンドンの「スウィンギング・シックスティーズ」の息吹を、ミニオンたちの物語の背景に与えることで、作品自体にその圧倒的なパワーを乗り移らせようという試みがあったのだ。
その変化の源流の一つとなったのが、アメリカのブラックミュージックだった。奴隷制時代から差別と抑圧にさらされてきたアフリカ系アメリカ人たちの文化の力が、イギリスの労働者階級のフラストレーションの行き場に道筋を与えたといえる。前作は、変わりゆく時代や社会のなかで翻弄されながら生活をしてきたというミニオンたちの設定に、この現実に存在した“ソウル”を重ねたのである。