『ソー:ラブ&サンダー』はなぜ観客に混迷した印象を与えたのか? 作品の“価値”を考える

 『マイティ・ソー 』シリーズも、『ソー:ラブ&サンダー』で、ついに第4作を迎え、マーベル・スタジオ映画では、単独ヒーローシリーズとして最長の存在となった。前作『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)に続いて、同じくタイカ・ワイティティ監督による、ギャグ満載の内容である。

 だが、一方でワイティティ監督の持ち込んだ新たなコメディセンスが加わったとはいえ、シリーズが10年以上続いたことで、さすがにフレッシュな勢いに欠け、以前ほどの求心力を感じなくなっているという声も聞く。ここでは、そんな本作『ソー:ラブ&サンダー』がたどり着いた“現在地”を探りながら、本作の価値を考えてみたい。

 目玉となっているのは、第1作から出演していたナタリー・ポートマンが演じる、ジェーン・フォスターが、偉大なハンマー“ムジョルニア”の力を手に入れ、なんと“マイティ・ソー”として再登場するというサプライズだ。第1作からのジェーンを知っていると、「何なんだそれは」と思ってしまうが、原作コミックで、すでに同様の描写があり、それを基にしたのが本作の展開なのである。

 もともとクリス・ヘムズワースのブレイク作となった第1作『マイティ・ソー』(2011年)は、ヘムズワースの明るく豪快な魅力とともに、北欧の神々の一人である“トール(ソー)”が、現代アメリカの社会に現れるという、ミスマッチなドタバタコメディとして人気を得た作品だった。

 その意味では、本作がコメディ作品として楽しめる内容になっていること自体は問題ないのだが、ジェーンがマイティ・ソーに変身したり、北欧神話よりさらに古いギリシア神話の主神ゼウス(ラッセル・クロウ)までが登場するというストーリーは、シリーズ当初のカルチャーギャップで観客を楽しませていた内容からすると、映画作品としては、いささか現実から逸脱し過ぎたものになってしまっているようにも感じられる。

 ソーが宇宙で大暴れをしたり、神話の世界が、さらに詳細に描かれていく趣向については、これまで荒唐無稽な展開を描いてきたとはいえ、あくまで現実の社会問題と歩調を合わせてきたマーベル・スタジオ映画の世界、MCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)のなかでは『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』シリーズ同様に異色であり、とくにタイカ・ワイティティ監督が加わってから、さらに際立って荒唐無稽なものとなっていった部分がある。

 折しも、現在のMCU自体、ソーを含めた第1陣のアベンジャーズのメンバーが、次々に引退していき、強大な敵“サノス”を打倒するという大仕事を終わらせたことで、大枠の目標を失っているところがあった。現実の世界においても、サノスと重なる部分が多かったトランプ元大統領が、大統領選に敗れることで、ヒーローが戦うべき“悪”の存在感が弱くなっている感があるのだ。

 その後ロシアが諸外国の制止を無視してウクライナに軍事侵攻するという、世界の秩序を乱し、核戦争の脅威が大きくなるという、前時代的な危機が訪れているのは確かだ。このような現在の世界情勢に対応する展開が、これからのMCU作品に反映されることは間違いないだろう。

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